自然素材のユニークな化粧品を“愚直”に開発し、国内外へ発信。
株式会社シロ
代表取締役 福永 敬弘
1973年広島生まれ。大学卒業後、株式会社リクルートに入社。雑誌編集長やメディアプロデュース責任者などを経る。2014年株式会社シロに入社。経営全般の戦略立案や、新規・海外事業展開の実行を行う。2016年、専務取締役就任。2021年、代表取締役就任。SHIROの更なる躍進に力を注いでいる。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
食用でもある素材を全国から集め、自然の恵みを活かす
株式会社シロは、厳しい自然が育んだ、国内外の素材の力を引き出したスキンケア用品やコスメ、フレグランスなどの製品を、企画から開発・製造し、店舗やインターネットを通じて販売する会社です。
素材として選んでいるのは、酒かす、がごめ昆布、ラワンぶきなど。どれもおいしく、安心して口にできるものばかりで、剪定後に捨てられてしまう副産物や、見た目の理由で食用に使うのは難しい部位などを、製品に有効利用しています。
捨てられる素材であっても栄養価や機能性はまったく問題なく、逆に効果効能が高い成分が多い場合もあります。その力を、余すところなく大切に製品に込める。
誰よりも「自分たち自身が、本当に毎日使いたい」と思えるプロダクトを生み出す。シロのものづくりの根底には、そんな想いが流れているのです。
店舗数は国内に27拠点。SHIROブランドに磨きをかけるため、ロンドンにも2店舗進出しています。また、北海道と東京の自由ヶ丘・渋谷では、カフェも運営。SHIROで使用している素材を加工したメニューを提供することで、その品質の高さや安全性を理解してもらうとともに、ブランドの世界観を体感していただいています。
年間発売する新製品数は他社の約2倍。新規顧客を呼び込み、順調に成長
売上は順調で、直近5年は、対前年130~150%の伸び。今期の着地は少し落ち込みますが、それでも120%近くまでいきそうです。
私たちは、企画開発に地道に取り組み、次々に新製品をリリースしています。通常の化粧品ブランドだと、新製品数は年間40~50といわれますが、SHIROでは年間約100にも及びます。
ほぼ毎月、新製品がラインナップに加わっているため、新しいお客さまをどんどん呼び込むことができるわけです。圧倒的な製品開発力による新規顧客とのタッチポイントの多さが、成長の要因になっています。
特に販促がうまいとか、営業力が強いわけではありません。ただ、SNSを利用したライブ配信は、2年以上毎週アップしています。
SNSによる販促は競合も力を入れていますが、ライブ配信を毎週必ず行う会社は皆無。というのも、準備も含めてかなり大変ですから。でも、当社は手間を掛けて配信し、アーカイブとしても提供しています。
要するに私たちの強みは、「愚直」であることなのだと思います。売上計画が頭にあるのは私ぐらいで、製品開発にあたるみんなは、良い自然素材を全国から集め、その魅力を最善の形で引き出すことに集中しています。
当社のものづくり・ブランド構築を主導しているのは会長の今井浩恵ですが、彼女はシーズを形にすることに注力しており、まさに「そろばんよりロマン」という感じ。年間1,000を超える試作を繰り返しています。
その愚直さが、独自性の強い素材へのこだわりを生み、年間約100という驚異的な新製品をリリースする原動力になっています。そして、シロを模倣困難でユニークな存在にしているのです。
ですから、私も売上計画を盾に開発を急がせるようなことはしません。それは、スタッフの情熱を削ぐだけですから。良い製品の開発は今井に任せ、製品を最善の形でお客さまに届けるための環境整備・体制強化に目を配る。それが社長である私の、愚直に取り組むべき領域と認識しています。
創業の地・砂川に新工場を建設。新たなまちづくりも推進
2022年冬には、北海道・砂川に新工場が完成予定。これにより、生産能力は約5倍にアップします。この新工場を、私たちは「みんなの工場」と名付けました。そして、みんなの工場を起点に、砂川の街を市民とともに創り上げる「みんなのすながわプロジェクト」を推進しています。
プロジェクトには、今井や私をはじめ、砂川市の市議や地域住民、建築家や都市計画専門家らが名を連ね、「子どもたちが未来に希望を持てる」「市民が誇りを持てる」砂川を創っていこうと、座談会やワークショップを行い、多くの市民と意見を交わしています。
新工場の立地には悩みました。最大消費地の首都圏に砂川から物を送ると時間がかかりますし、降雪で物流に支障をきたすなどBCP(事業継続計画)の面でもリスクがあります。それでも最後は、創業の地である砂川を選びました。
「社員の幸せを考えた時、東京に主要拠点を置くのが正解か?」という疑問もありました。コロナ禍により思わぬリモート環境を体験しましたが、やってみると「どこにいても働ける」という実感を得ました。
創業の地に対する熱い思いがあり、現実的な事業運営でもそれほど問題はない。だったら、未来永劫、東京に固執する理由はなく、どこかで砂川を再度本社にすることも考えるかも知れません。
SHIROに親しみを抱くファンが、聖地巡礼のようにここを訪れ、街の魅力に触れて、感動体験を持ち帰れる場所にしたい。そう考え、「みんなの工場」を砂川に置こうと決断しました。
私は、「SHIROブランドとシロという会社を、100年、200年続くものに育てたい」と考えています。そのために必要なのは、売上や店舗数といった業績だけではありません。お客さまに愛着を持っていただける、オリジナルのストーリーを持ったブランドづくり、そして地域の人々と共に歩むという明確な意思を持った、私たちにしかできない価値の提供です。
だからこそ、「みんなのすながわプロジェクト」にも積極的に取り組むのです。簡単でないことは十分承知しています。私たちは、自身の強みである「愚直さ」を大いに発揮し、着実に前進していきます。
多くの新たな人材を迎え入れ、内製化を進めたい
シロはもともと、ハーブを加工した食品や雑貨などの卸販売を行う会社(当時の社名はローレル)として創業しました。その後、2000年前後から、大手メーカーの依頼に応じて化粧水のOEM製造に着手。やがて、OEMを続けるうちに生まれてきた「自分たちが毎日使いたいものを作る」という思いを形にしようと、2009年に自社ブランド「LAUREL」を立ち上げました。
2014年にはOEMから完全撤退し、自社ブランドに特化。2015年には「LAUREL」から「shiro」へ、さらに2019年には「SHIRO」へとリブランディング。近年は、ブランドを磨き上げることに徹底してきました。ブランドが良い形で成長したおかげで、良い人材も集まるようになりました。特に、ITやWebマーケティングといった分野で、大手企業で活躍していたような人材に来てもらえたのは収穫だったと思います。
しかし、まだまだ人材は足りていません。当社はもっと内製化を進めたいと考えています。コロナ禍により対面販売が大きく制限される状況下にあっても、前年を超えて売上を伸ばせたのは、開発・製造から販売に至るまでのサプライチェーンを、自社内に確立していたからです。
このサプライチェーンを強化すると共に、IT、Web、マーケティング、カスタマーサポート、販促など、あらゆる部門を自社で賄えるようにしたいのです。そのためには、多くの仲間を迎え入れる必要があります。
当社で大切なのは「素直さ」だと思います。これは、会社の方針に迎合してほしい、という意味ではありません。前述した当社の歴史を見てもわかるように、シロは変化の多い会社です。
食品・雑貨から化粧品のメーカーになったり、OEMから自社ブランドを立ち上げたり、ブランド名を変更したりと、頻繁に変化を伴う進化を果たしています。数々の変化を柔軟に受け入れ、そこから新しい価値を追求していこうという素直さがあると、会社にうまく適応できるでしょう。
SHIROはまだ完成されたブランドではないし、私たちはまだまだ発展途上です。見方を変えると、これからさまざまな面で完成度を高めていける会社、とも言えます。そのダイナミズムに面白さを感じる人にとって、当社は居心地のいい場所ではないでしょうか。