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北海道で、宇宙に挑める仕事をつくる。
Letara株式会社
代表取締役Co-CEO 平井 翔大
京都生まれ、北海道育ち。北海道大学に総合理系の第1期生として入学し、工学部の機械系へ進み、永田晴紀教授の研究室でハイブリッドロケットの研究に取り組む。大学院在学中にドイツのミュンヘン工科大学へ留学。帰国後、学生向けの国際ビジネスコンテスト「Hult Prize」に出場し、米国ボストンで開かれた地域予選に進出。2017年からロケットでの事業化を検討し、同年、JAXAとの共同研究を開始。2019年に新しい材料を使った燃焼試験に成功。2020年6月、ランドン・ケンプス氏とLetara株式会社を設立し、代表取締役Co-CEOに就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
この記事でわかること
- 爆発リスクの低いロケットエンジンを開発する、北大発のLetara
- 国際ビジネスコンテストでの悔しさから、得意なロケットで起業を決意
- 蓄積した試験データを生かし、用途に合うエンジンを提案
- 衛星用エンジンの宇宙実証と、打ち上げロケット向け開発に挑む
- 経験のない仕事にも自ら挑み、柔軟に動ける人を求める
宇宙への入口は、母が買ってきた漫画だった。
私たちが2020年に設立したLetara株式会社は、爆発の危険性が低いロケットエンジンを開発する北海道大学発のスタートアップです。私は共同代表のランドン・ケンプスとともに、エンジンの事業化を進めています。
小学5年生になるまでは、宇宙に興味があったわけではなく、ただのサッカー少年でした。ところが、その頃に母が買ってきてくれた「地球大進化」という一冊の学習漫画が、宇宙に興味を持つきっかけになりました。
そこには、太陽系ができ、マグマに覆われた地球に生命が生まれるまでが描かれていました。「自分の生きているこの地球が、こういうふうにできているんだ」と、地球ができるまでの壮大な話を子どもながらに面白く読みました。
それからは自分でテーマを決める機会があるたび、気づけば宇宙に関するものを選ぶようになります。たとえば、小学6年生の調べ学習では、「地球46億年をまとめる」というテーマを選びました。
手を真っ黒にした研究室。自分を変えるため、ドイツへ。

北海道大学には、学部を決めずに入学する「総合理系」の第1期生として入りました。宇宙と医療のどちらに進むか迷っていた1年生のときに学部紹介の展示会で、ローソクの火が筒の位置で大きく変わる実演を見ました。
また、難しい数式を映して「工学部に入ったらこれが分かるぞ」と話す先生もいました。「これを理解するには勉強しなければ」と思い、まずは工学部へ進むことを決めました。
ちょうど宇宙のスタートアップができ始め、宇宙開発のニュースも増えていた時期です。工学で宇宙をやるならロケットだと考え、北大の「宇宙環境システム工学研究室」を目指しました。機械系120人のうち、配属されるのは毎年5〜6人の狭き門で、入るために必死に勉強しました。
ロケット研究には華やかなイメージを持っていましたが、永田晴紀教授の研究室で待っていたのは、ネジ締めや部品の組み立てといった地道な作業でした。飲食店のアルバイト前には、真っ黒になった手を必死に洗って出勤していました。
地道な作業を続けられたのは、燃焼試験でしか味わえない迫力があったからです。試験そのものは短いときでわずか3秒。その数秒のために何日も準備し、終わればひたすら片付けます。それでも、目の前で燃焼が始まり、強い振動が胸まで響くと、「もう一度やりたい」と思うんです。
研究室に外国人が増えてグローバルになるなか、このままでは自分が埋もれてしまうと感じ、大学院ではドイツのミュンヘン工科大学へ留学しました。言葉も通じず友達もいない環境に、あえて自分を置きました。
世界との差を痛感し、悔しさを胸に、ロケットで戦うと決めた。
当時はまだ起業を考えていませんでしたが、留学から帰って半年ほど経った頃、同じ研究室にいたランドン・ケンプスと、学生向けの国際ビジネスコンテスト「Hult Prize」の北大校内予選に出場したことが転機になりました。
テーマが難民支援だったため、専門のロケットは使わず、全く別の事業アイデアで挑戦し、学内予選で2位となりました。地域予選に進めるのは優勝チームだけでしたが、別枠の選考に応募して通過し、米国ボストンで開かれた地域予選へ進みました。
会場には、インドやタイ、アメリカ、イタリアなど、世界中からチームが集まっていました。その多くがすでに事業として実証試験まで進めており、アイデアを磨いて臨んだ自分たちは一歩も二歩も遅れていると感じました。
世界との差を前に、悔しさと悲しさ、恥ずかしさが入り混じりましたが、同時に「自分たちの得意な領域で人生をかけてやろう」という気持ちが湧いたのを覚えています。
帰国した足で、ランドンと荷物を抱えたまま札幌駅のスターバックスに入り、すぐに反省会をしました。「やるんだったら、やっぱりロケットで事業化しよう」。このときの決断をきっかけに、2017年春から二人でロケットの事業化を考え始めました。
その年、研究室とJAXAとの間で共同研究が始まりました。新しい材料を使った試験では着火に苦戦しましたが、2019年に燃焼に成功したことで事業化の見通しが立ち、2020年6月にLetara株式会社を設立しました。
燃料の形まで設計する。データを活かし、宇宙用エンジンをつくる。

Letaraが専門に開発しているのは、爆発の危険性が低いロケットエンジンです。車にたとえると、動力部分に当たります。固体の燃料が入った筒に酸化剤を流し込み、燃焼ガスをノズルから超音速で噴き出すことで推力を生みます。
燃料の一つには、ビニール袋などにも使われるポリエチレンを使っています。プラスチックの中でも広く流通していて、安く手に入るからです。ただ、同じ材料を使っても燃料に開ける穴の形や大きさ、組み合わせる酸化剤によって、エンジンの性能は大きく変わります。
一般的なハイブリッドロケットは燃料の真ん中に一つの穴を開けた構造です。一方、永田教授が長年研究してきた方式では、二つの穴を開けた燃料ブロックを90度ずつずらして配置し、燃焼効率を高めます。ほかにも燃料に小さな穴を格子状に開けるなど、性能を高めるためのさまざまな方法があります。
私たちは、燃料の形や材料、酸化剤の組み合わせを変えながら試験を重ね、それぞれの性能データを蓄積してきました。強い推力を出したい、一定期間保管してから使いたいといったお客さまの要望に応じて、複数の組み合わせを提案できます。
新しい材料を使う場合も、これまでのデータを基に、何を測り、どう評価すればよいかを判断できます。この提案の幅の広さと、新しい材料への対応力が、Letaraの強みです。
2026~2027年の宇宙実証へ。札幌・滝川で開発を進める。
現在は国の研究開発を支援するNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業を活用し、超小型の人工衛星などに搭載するエンジンを開発しています。2026年から2027年にかけて、実際の宇宙空間で性能を確かめることを目指しています。
Letaraが開発しているのは、衛星向けの推進システムだけではありません。人工衛星を宇宙へ運ぶロケット向けのエンジン開発も進めています。安全で使いやすいエンジンを幅広い用途に展開し、より多く作って届けることが次の目標です。
開発拠点は札幌市の本社と滝川市の2カ所です。滝川では、学校としての役目を終えた廃校を宇宙開発の場として生かしています。社員には働く時間だけでなく、仕事の後や休日も楽しんでほしいと考え、本社は札幌に置きました。札幌なら仕事を終えてすぐ飲みに行くこともできます。
北海道に優秀な人材を残す。経験のない仕事、自ら挑める仲間と。

Letaraを始めた理由は、もう一つあります。私が課題だと感じていたのは、北海道の大学で学んだ人材の多くが、卒業後に道外へ出ていくことです。道内に残る人や、一度道外へ出た人が北海道に戻ってきたときに働ける場所をつくりたいと考えていました。
私は京都生まれで、共同代表のランドンも北海道の生まれではありません。それでも二人とも北大に長くお世話になり、起業のときも道内の多くの方々に助けてもらいました。札幌と滝川で雇用を生み、量産を通じて道内企業への発注を増やすことで、北海道の経済に貢献できる会社を目指しています。
採用を本格的に始めてから、まだ3年ほどです。会社には、まだないものや、やらなければならないことがたくさんあります。だからこそ、経験や知識だけでなく、やったことのないことにも挑み、柔軟に動けることを大事にしています。
実際、文系出身で、ロケットの知識がない社員が、プロジェクトを任されるなかで力をつけ、いまはある部署のマネジメントを担っています。ロケットの知識は入社してから身につけることもできます。
社内には外国籍のメンバーもいますが、完璧な英語は必要ありません。英語を話せない日本人社員と日本語を話せないイタリア人社員が、「昼飯行くぞ」と誘い合って、一緒に出かけています。
業務上のやり取りでは、チャットの翻訳機能も使えます。言葉が完璧に通じなくても相手と関わり、経験のない仕事にも自分から手を挙げられる人と一緒に会社をつくっていきたいです。