商業宇宙港「北海道スペースポート」を核に、宇宙版シリコンバレーを。
SPACE COTAN株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 小田切 義憲
1962年、東京都出身。1987年、全日本空輸株式会社(ANA)入社、運航管理部門現業業務を担当。1993年、ANA運航本部、運航に関する規定類管理部門を経て、羽田空港の再国際線化時に空港オペレーション現業部門責任者を務める。2011年、LCC新会社のエアアジア・ジャパン株式会社設立に参画し、後にCEO就任。2016年、株式会社ANA総合研究所入社、インバウンド増加などに対応した空港を中心とする地域創生の調査・研究に携わる。2021年4月、SPACE COTAN株式会社代表取締役社長 兼 CEOに就任。大樹町とともに、商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」の事業推進・運営などを行い、ロケット打ち上げ支援や宇宙のまちづくり事業などに取り組んでいる。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
「宇宙」を夢やロマンだけではなく、リアルビジネスに。
当社は大樹町で、商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」運営などの事業に取り組み、北海道全域で宇宙関連産業の集積である「宇宙版シリコンバレー」の創出をビジョンとしています。
HOSPOは垂直型のロケットの打ち上げ・水平型のスペースプレーン(宇宙往還機)の離着陸のほか、気球などさまざまな乗り物に対応する宇宙港として整備を進めているところです。
私たちの仕事は夢やロマンがあるとよく言われますが、着実にリアルビジネスとして現実化していくことが当社の役割だと考えています。
私自身のキャリアはエアラインからスタートしました。その後、シンクタンク在籍時に学んだ地方創生に関する知識が今の仕事につながっていると感じています。
また、エアライン時代には空港運営会社と話し合う機会がよくありました。「宇宙の仕事をしないか」との誘いを受けた時、射場運営は空港運営の宇宙版だと考えると頭の整理ができ、取り組んでいこうと心が決まりました。
仕事を具体的に進めるにつれて、航空業界のエアラインと空港という役割分担と、宇宙業界のロケット打ち上げ事業者と宇宙港という役割分担が似ていることが分かり、これまでのキャリアや経験を宇宙の仕事に活かせている実感があります。
人工衛星打ち上げのニーズとともに宇宙産業マーケットは拡大。
ロケットに求められているのは、人工衛星を放出し、その人工衛星によって通信、位置情報の取得(GPSなど)、あるいは天気予報や環境調査、防災・減災など、さまざまなシーンで活用することです。
ロケットを打ち上げるのは打ち上げ事業者の仕事で、例えば北海道では実業家の堀江貴文氏が創業したインターステラテクノロジズ社が行っています。
近年、ロケットは世界中で数多く打ち上げられるようになっています。特に、アメリカでは2024年に157基。イーロン・マスク氏が率いるスペースXが激しい勢いでロケットを打ち上げており、それだけ人工衛星打ち上げのニーズは増えているわけです。
この先、宇宙産業のマーケットはさらに広がるとされ、最近の情報では世界の市場規模は1.1兆ドル、約150兆円まで伸びるとされています。
特に注目すべきは、2030年からの10年間で一気に伸びるということ。小型人工衛星を多く打ち上げ、そのデータを仕事や生活でさらに活用していくと予想されています。
世界の小型人工衛星の打ち上げ実績は、2014年の221基から、2023年には2860基に増加。大型・少数から、スペースXを代表とする小型・多数「コンステレーション」の時代に大きく変わってきています。
小型衛星に適さない放送(BS/CS)などの大型衛星はほぼそのままで、小型衛星のマーケットが一気に成長している状況です。
大樹町の宇宙港としての優位性を活かし、まちづくりへ。
宇宙産業の拡大に伴い、宇宙港の重要性はより高まっています。その中で大樹町は射場としてさまざまな優位性を誇ります。
最大の優位性は日本の一番東側に位置していること。人工衛星は地球の自転の力を借りるため、東側、あるいは南や北の方向に打ち上げます。大樹町は東にも南にも打ち上げ可能で、そのような場所は世界でも多くはありません。
地の利に加え、晴天率が高い、北海道の中では雪が少ないなど環境的にかなり恵まれています。
また、アクセスにも優れています。海外の射場は都市から離れていることが多いのですが、私たちの場合は毎日射場へ行って帰ってきて、夜には温泉に入っておいしい食事ができます。働く皆さんのQOLを高められることも強みだと思います。
SPACE COTANは、HOSPOでのロケットの打ち上げ事業の定着をまず進めますが、それで終わりではなく、そこから地域の皆さんにしっかりと還元できるよう宇宙を核とした地方創生に取り組みます。
また、SDGsの観点から燃料利用などの面での持続可能な社会への貢献も行うほか、人口が減少する中で宇宙や衛星データを活用した新しい生活を実装する未来都市創造も目指します。
HOSPOの整備による北海道への経済波及効果は年間267億円、雇用創出は2,300人、打ち上げ見学などの観光客は17万人と算出されています。
ロケットの垂直打ち上げは間もなく始まりますが、定期的な打ち上げにはもう少し時間がかかると思います。今後10~15年でフェーズ1としての宇宙のまちづくりができればと、全力で準備を進めているところです。
「宇宙戦略基金」採択で、射場技術の調査・研究を加速。
宇宙産業の根幹となっているのは、国の宇宙基本計画です。これまではJAXAが鹿児島県の種子島と内之浦から打ち上げており、国の衛星を国のロケットで打ち上げ、射場も国が管理するというワンセットで考えられてきました。
それが、2023年の宇宙基本計画の改定で「射場スペースポートについても必要な対応を講ずる」とされたことで、さまざまな広がりが生まれました。
宇宙基本計画に沿って宇宙技術戦略が策定され、それに基づく宇宙戦略基金が創設。民間企業にも資金を支援していこうと、10年で1兆円の国の基金ができ、第1期は3,000億円配分されました。
そのうち、私たちは輸送系の基盤技術を獲得するため最大105億円の基金が決定し、2025年春から4年がかりで調査・研究を行います。
続く第2期の輸送系は630億円程度の大きな規模で、採択されれば当社はトータル85億円程度の予算でスマート射場の研究を進められます。
北海道は人口減少が激しいため、今後の射場運営はいかに省人化するかが非常に重要です。そのためにはAIやデジタルツイン、通信精度の向上などさまざまな技術開発が求められており、基金を活用して検討に取り組みます。
北海道の産業として育て、ものづくりから打ち上げまで。
最終的には、ロケットなどのものづくり産業も北海道に広げたいと考えています。ただ、一朝一夕にはできません。
まずは航空宇宙産業系に強い名古屋の企業などと連携し、取り組みが成熟したら工場を北海道に移してもらい、すぐにロケットや人工衛星を打ち上げられるような世界を形成したいと考えています。
北海道には過去に石炭、製鉄などの産業がありましたが、同じように産業として育てていくことも私たちの役割だと思っています。
また、ロケットは輸送ビジネスも考えられます。例えば飛行機は東京からニューヨークまで約14時間で、ファーストクラス200万円、エコノミー20万円ほどですが、かかる時間は全員同じです。
一般的にいえば、時間価値の高い人はもっと高額でも速く行きたいと考えるでしょう。「ポイント・トゥ・ポイント(P2P)」といわれる宇宙を経由する輸送の場合、アメリカまでは1時間ですから、仕事をしてすぐに日本へ帰ってくるような時代が15年ぐらいの間に来るとされています。
そのためにも必要なのが、ロケットや射場設備などの標準化です。国際線の飛行機が世界中を不自由なく行き来できるのは、標準化されているからです。
これまでロケットは国をまたぐオペレーションがなく、標準化は必要ありませんでした。最近、往還機 (地上と宇宙を繰り返し往復する宇宙機)などの開発が進んで標準化が求められるようになり、その結果としてコストも下がるため非常に重要になっています。
そこで、当社を含む5大陸8商業宇宙港と国際協力に関する覚書(MOU)を締結し、射場の世界規模の標準化を目指した取り組みもスタートさせました。
黎明期にこそ必要なのは知的好奇心とチャレンジ精神。
当社には幅広い分野の業務があり、それを担う人材を求めています。ロケットサイエンティストのような技術者のほかに、例えば射場の標準化に向けて動くような人材ももちろん必要ですから、宇宙の仕事は理系人材にしかできないということは決してありません。
もう一つ重要なのは、最終的には人工衛星のデータを解析してビジネスにつなげていくので、そのアイデアづくりは無限にあるということ。例えば十勝は農業地域ですから、畑の写真を解析して収穫の時期を見極めたり、病気を見つけたり、さまざまな仕事が待っているといえます。
ですから、私たちが一緒に働きたいと考える人物像には、いろいろなことを自分で切り拓いていく、新しいことをどんどんやっていく姿勢が欠かせません。
その時に、例えば私ならバックグラウンドの航空の世界と照らし合わせて考えていくように、それぞれのキャリアをもとにうまくアレンジしていける柔軟性も大切です。
そして何より、知的好奇心を持って、チャレンジしていくこと。今までなかった新しいものをつくっていくわけですから、ルールはしっかり守りながらも海外と競争していく心構えを持ち、日本の将来の産業としてあるべき姿を求めていく姿勢が重要になります。
宇宙産業はまだまだ黎明期です。新しい仕事に対する意気込みが強い方、チャレンジ精神が旺盛な方に、ぜひ当社のドアをノックしていただきたいと思います。