「お客さまは何を望むか」を基本に鉄加工の多彩なニーズに対応。
阿部鋼材株式会社
代表取締役社長 阿部 大祐
1969年生まれ。大学を卒業後、機械メーカーの株式会社田中製作所(現在の日酸TANAKA株式会社)に就職。東北エリアを担当する営業を経験。1996年、経営者の父が体調を崩したことをきっかけに、阿部鋼材に戻る。それから中途人材の採用、中堅人材の登用など社内改革に積極的に取り組む。2014年、社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
顧客の求めに応じて業容を拡大。その努力が信頼につながった。
阿部鋼材の創業は1950年。室蘭の日本製鋼所に勤めていた創業者が、札幌への配転を機に独立して、事業をスタートさせました。当初は工場もなく、外注先に鉄の加工をしてもらっていましたが、2年後に工場を構え、鉄加工を行う体制を整えました。
お客さまの多様な要望に応えるため、鉄の切断だけでなく曲げや溶接など、徐々に領域を拡大させていきました。昭和の時代に多かったのは、トンネルの支保工(仮説構造物)、道路の防雪柵、農業用水路などに使われる鉄材・鋼材の加工です。
その他にも、当時はドラム缶を応用した家庭向け燃料貯蓄用「ホームタンク」も作っていました。実は、ホームタンクという名は当社がつけたものですが、商標登録もしていなかったので、競合他社も自由に使って定着した名前となりました。
今日では、建築系鉄骨を始め各種産業で使用される鉄材・鋼材・鋼板の加工に幅広く取り組んでいます。高精度の切断を実現する大型レーザー切断機や、50mm厚の切断を高速で実行するプラズマ切断機、大量加工に最適のガス切断機など最新の設備を揃え、ニーズに細かく応えています。工場も、発寒と石狩の2ヶ所に広がりました。
創業からもっとも大事にしているのは、「お客さまは何を望むか」ということです。業容を拡大させたのも、「これ、阿部さんで対応できますか?」といったお客さまの要望があり、応えようと努力した結果です。北海道は市場が小さく、季節の変動要因が大きい事情もあって、対応領域を広げる工夫が欠かせません。切断だけでなく、曲げも溶接も・・・と取り組んだ結果が、今の信頼につながっています。
社内風土を変えるため、さまざまな手を打つ。
私は阿部鋼材に入社する前、レーザー切断機やガス切断機などの加工機を提供するメーカーで営業をやっていました。営業マンとして多くの工場を見た経験から、阿部鋼材に帰ったとき、「改善点が結構ある」と感じました。もっと狭いスペースで何種類もの機械を稼働できるのに、阿部鋼材の工場は無駄なスペースが多いとか、5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)が行き届いてない、などです。
もっとも問題だと思ったのは、会社が社員に対し、明確なビジョンを語っていない点です。そのため、業績が悪くなると、社内のあちこちで良くない噂話が起こります。経営側が「こういうことを大事にしよう」「こういう道を進んでいく」といった方針を示さないから、社員は不安になるのです。
私は、業務の改善活動や5Sを提案しました。それらをスタートさせることで、上の指示に唯々諾々と従うのではなく、みんなで話し合って決めていく風土を醸成したかったのです。入社したての20代の若造でしかない私が、超ベテランの居並ぶ中で社内風土を変えるのは、容易ではありません。それでも、できることから着手しました。
コンサルタントに依頼して、工場の改革を進めたこともあります。自分たちの努力だけでなく、改善のノウハウをプロに教えてもらいたかったのです。社内にはそういった活動を疑問視する人もいたのですが、私は結果で答えを出すしかない、と腹をくくっていました。
いろんな手を打っていた矢先、2008年にリーマンショックが、2011年に東日本大震災が発生しました。この影響は大きく、2011~2013年の3期連続で赤字を計上してしまいました。事業を立て直すには、従来のやり方を大きく変えないといけない。そう決心した私は、やはり社員に対して明確なビジョンを打ち出すようにしました。
そして、注力したのが人材です。ベテランに依存するのではなく、中堅人材を抜擢し、専門的なスキルを持った人材を中途採用するといった人事改革を進めていきました。こうした人材の登用は、当社を大きく変えてくれたと実感しています。
中途人材の登用が、事業推進を加速させた。
中途入社第一号として当社に来てくれたのは、経理の専門家です。彼とは、入社して2ヶ月くらい、毎日2~3時間ミーティングして、阿部鋼材をどういう会社にしたいのか話しました。
彼は私の思いを理解し、動いてくれました。とにかく実行が早いのです。予算計画もすぐ作成するし、「こういう機械を入れたい」「こういう人材を採用したい」となった時も、資金繰りを柔軟に見直して、可否を提示してくれる。経営者としてとても助かっています。
また、Uターンで戻ってきた技術者にも助けられています。彼は技術者派遣の会社で働き、超大手の派遣先でチームリーダーとして活躍していたため、コミュニケーション能力も抜群で、仕事をトータルでロジカルに考えることができる。彼の提案は、周囲がうなるような内容ばかりです。彼には石狩工場で管理職についてもらっています。
異業種から当社に入社してくれた人材もいます。例えば、旅行会社から転職してきた社員には、接客力の高さを感じますね。言葉選びがとても丁寧なので、お客さまとの関係をうまく構築してくれます。「お客さまは何を望むか」を大事にする、という当社の姿勢を実際の営業活動で体現しているといってもいいでしょう。
また、食品卸の会社で営業、経理、新部門立ち上げなど、いろいろな職務を経験した転職者もいます。さまざまな職を経験しているので、仕事をトータルに見据えることができる。若い社員に対する面倒見もいいので、彼の下でなら若手は伸びるだろう、と感じます。
彼らのような中途人材が加わったことで、阿部鋼材は着実に変わってきました。みんなで話し合い、方針を定めて全員で前に進む、という風土が生まれています。
当社に来てくれた転職組に話を聞くと、入社を決断する前にリージョナルキャリア北海道から、何度も阿部鋼材についてレクチャーを受けたと言います。社風、経営者の人柄、事業において重視することなど、いい話もそうでない部分も包み隠さず説明を受けたようです。
吟味を重ねた上での決断ですから、転職してからもギャップはなかった、と彼らは一様に口にします。事業推進のスピードを上げられたのは、そういう人材が集まってくれたおかげです。
「相手の立場で考える」という基本は変わらない。
業界全体では、後継者不足が問題になっています。廃業する会社も出ている中、「この業務を阿部鋼材さんでやってくれないか」といった要望も増えてきました。当社の専門は鋼加工ですが、できる限り対応しています。事業承継のためグループに参入する、といった案件も増えており、事業シナジーが期待できるなら前向きに検討しようと思います。
一方、働き方改革も喫緊の課題です。人がやる必要のない作業はできるだけ機械に任せるようにすれば、生産性が向上します。それにより、世代も属性も関係なく、1日短時間しか働けないといった方にも活躍の場ができるかもしれません。こういったフレキシブルな働き方についても実現に持っていきたいと考えています。
創業の頃も、これからも、私たちの基本は変わりません。大事なのは、お客さまの要望をいかにキャッチするか、です。ニーズ自体は時代によって変わりますが、「相手の立場で考える、お客さまの望みを第一に考える」姿勢は、いつも同じ。その姿勢を大事にして、誠実に取り組んでいけば、答えは見つかります。
会社の変革と進化のため、中途人材には期待を寄せている。
中途人材は、当社の変革に貢献してくれています。会社の発展のため、新たな仲間を増やしていきたいですね。職種・スキルはさまざまですが、基本は、何事にも一所懸命に取り組む姿勢ではないでしょうか。挑戦してみないとわからないこともある、だったら懸命にやってみよう。そんな意欲を持てる方に期待したいですね。
結果を考えると萎縮することもあるかもしれませんが、そんな必要はありません。どのような結果でも、すべての責任は会社にあるのですから。社員一人が失敗したくらいで、会社が傾くことはありません。責任は取るので、自信を持ってチャレンジしてほしいと思います。
最初は戸惑いもあるかもしれません。しかし、当社はこれまでも未経験者を受け入れてきました。彼らは未知の業界の仕事に対しても、過去の経験を活かして上手くアジャストし、当社を動かす力になってくれています。意欲があれば、業界を知っているかどうかは関係ありません。ぜひ当社で活躍してください。