非臨床~臨床試験のワンストップサービスで生命科学の発展をサポート。
株式会社化合物安全性研究所
代表取締役社長 松井 豊
茨城大学大学院 農学研究科を修了後、日本ケミファ株式会社に入社。学術部門(現 メディカルアフェアーズ部)で医薬品のプロモーションやMRの学術教育を担当。その後ファーマコビジランス部門へ異動し、医薬品の安全管理業務の責任者を歴任。2019年、出身地である北海道に本拠を置く株式会社化合物安全性研究所に転籍。2021年、社長に就任。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
医薬品、医療機器、再生医療等製品の臨床・非臨床試験に対応。
1967年、北海道庁衛生部より、北海道大学医学部に「北海道の風土病であるエキノコックスの治療薬について、安全性を調べてほしい」という要請がありました。それを受け、北大医学部・薬学部・獣医学部、および札幌医科大学の医学者たちは毒性試験を開始しました。
これに端を発し、毒性試験の社会的意義、医薬における安全担保の重要性に関心を覚えた医学者らは、安全性試験協会を設立しました。そして、1970年に同組織を発展させる形で株式会社として発足したのが、化合物安全性研究所(化安研)です。当社は、今でいうアカデミア発ベンチャーとして誕生したのです。
以降、化安研は「人々の健康で豊かな生活への貢献」を理念に、医薬品、医療機器、再生医療等製品をはじめ、農薬や各種化学物質における安全性試験の受託事業を行うCRO(Contract Research Organization)として事業を展開しています。
設立から50年以上にわたって非臨床試験の実績を積み重ね、中でも医療機器のGLP(※)試験受託件数は2,500以上と国内トップクラス。リスク分類のクラスⅠ~Ⅳまで、すべての生物学的安全性試験に対応します。
また、約20年前からは臨床試験の受託も開始し、後発(ジェネリック)医薬品の生物学的同等性試験の受託実績は450プロトコルに及びます。こちらも国内トップクラスの実績を誇っています。
(※)GLP(Good Laboratory Practice=優良試験所規範)とは法令に則った非臨床試験の基準であり、医薬品、医療機器、再生医療等製品、農薬、化審法、動物用医薬品、飼料添加物などのそれぞれにGLPが設定されていますが、化安研はそのすべてに適合しています。
非臨床から臨床までワンストップサポートする、業界で希少な存在。
化安研の最大の特徴は、非臨床試験から臨床試験までワンストップでサポートする体制にあります。非臨床試験とは、前述のGLPに則り、対象物の有効性・安全性・毒性などを調査する試験で、大まかに言うと、マウスなどの動物を使うin vivo試験と、試験管内で培養細胞などを用いて行うin vitro試験があります。
医薬品を始め、医療機器、再生医療等製品が人体に適用されるためには、まず非臨床試験で安全性を確認しなければなりません。当社では、さまざまな種類のin vivo試験を行うと同時に、動物福祉の観点から、既に亡くなった動物の体の一部を用いた試験(眼刺激性試験代替法=BCOP)など、代替法の開発などにも取り組んでいます。
一方、臨床試験とは、医薬品や再生医療等製品などの有効性・安全性を、健康な人や患者さんにご協力いただいて確認する試験です。非臨床試験におけるGLPに相当する基準として、GCP(Good Clinical Practice=臨床試験実施基準)が定められており、その遵守が求められます。
当社は、ジェネリック医薬品の生物学的同等性試験をはじめ、P1試験(第1相試験=健康な成人に開発中の薬剤を投与して、安全性を確認する試験)、探索的臨床試験、医療機器及び再生医療等製品、健康食品の臨床試験などにおけるモニタリング・監査業務などを受託します。
臨床試験の受託を始めたのは、2001年から。以来、着実に受託件数を増やし、スキルを蓄えてきました。化安研は、医薬品、医療機器、再生医療等製品など各種モダリティ(治療手段)の開発において、非臨床試験から臨床試験までを1社でワンストップサポートする、CRO業界では希少な存在なのです。
低コストで、迅速かつ高品質な試験が可能。
非臨床・臨床試験をワンストップで行うメリットは、3つあります。
1つめは、価格優位性です。臨床試験と非臨床試験を別々の会社で行うと、開発メーカーがそれぞれに相対しなければならないため、都度手間が発生しますし、試験スタッフも異なるため、コストが上積みされます。しかし、当社の場合、1社でシームレスに対応できるので、余分なコストが発生しません。
2つめは、迅速性です。各試験で得られた情報は社内で一元管理して共有されるので、試験を効率的に行うことができ、より早く成果を提供できるのです。顧客からは「非臨床から臨床に移行する際のコミュニケーションがスムーズで、安心できる」といった評価もいただいています。
3つめは、品質の高さです。非臨床試験にはGLP、臨床試験にはGCPという厳格な基準がありますが、双方を理解するスタッフが試験を担当します。そのため、高い品質が担保できるのです。当社は定期的なジョブローテーションを実施し、非臨床・臨床の両フェーズに通じた、スキルと視野の広い人材を育成するよう努めています。
アカデミアやベンチャーの要望にも応えられる小回りの良さ。
低コストで、迅速かつ高品質な試験が行える。これらのメリットは、特にアカデミアやベンチャーの研究者にとって魅力を感じていただけるのではないかと思います。アカデミアなどの試験は、製薬メーカーなどと比較して規模が小さく、開発費用も潤沢とは言えないケースが大半です。
そのため、アカデミア案件に積極的でないCROも少なくありません。しかし、価格優位性のある化安研なら、スムーズに対応できます。資金力に乏しいアカデミアやベンチャーにとって、小回りの利く当社のようなCROは重要なのです。
さまざまな顧客の声に応えるため、社内環境も整備しました。これまでは事業部ごとに独立していた営業機能を一体化し、非臨床・臨床に一元的に対応できるようにしたのです。
また、当社単独では手に余るような特殊な試験に対しても、医療系IT企業や専門性の高い異業種や同業他社とのパートナーシップを組むことで、幅広いニーズに対応しています。これらの取り組みにより、顧客満足度がさらに上昇していると実感しています。
北海道内の医学系大学、工科系大学、あるいは医療機器や再生医療の研究を行うベンチャーとの協力体制は、確立されつつあります。その先は、ここで構築したネットワークを基盤に、さらに全国にも広げていきたいと考えています。
倫理観と愚直さに加え、「創造力」と「想像力」が不可欠。
化安研はGLP、GCPといった厳しい規制のある業界に身を置いています。そこで働く者には、ルールに則るのはもちろん、適正な倫理観と、愚直な姿勢が求められます。
取り扱うものの多くはまだ市場に出ていない医薬品や医療機器、再生医療等製品などであり、試験を進める際は、想定外のさまざまな状況に直面します。そういった時に必要なのは、ルールの枠内でどうやって問題を解決するか、という対応力です。
私は、スタッフに対し、よく2つのソウゾウ力を駆使してほしい、ということを伝えます。すなわち、creationの「創造力」と、imaginationの「想像力」です。想像力と創造力の双方が、当社の業務に必要なスキルだと考えています。
札幌に本拠を置く会社として、当然のことながら北海道で人材を採用・育成したいと考えています。それは地域に根ざす企業の務めでもありますし、北海道の活性化に少しでも寄与できればという思いの表れでもあります。
CRO、特に臨床CROの分野は人材の移動も頻繁で、特に関東圏などでは多くの人材が流動しています。しかし、当社の場合、北海道で採用した人材の離職率は低く、しっかり定着してくれていると感じています。長く働いてもらうことで蓄積された知見は、臨床・非臨床のワンストップサービスを実践する当社にとっての貴重な財産です。
人類の周辺には、医薬品をはじめとする多種多彩な化学物質が溢れています。それらは私たちの生活を豊かにしてくれた一方で、副作用・環境破壊といった負の影響ももたらしました。化学物質のマイナス面を少しでも減らし、人間と環境の未来に貢献するため、私たちは今後も役目を果たしていきます。