社員とその家族を幸せにすること。札幌をスイーツの街にすること。
株式会社きのとや
代表取締役会長 長沼 昭夫
1947年10月11日生まれ(69歳)
札幌市出身、札幌西高校・北海道大学水産学部卒業後、酪農業を創業、大手流通業でのバイヤー職を経て、1983年「洋菓子きのとや」を札幌市白石区に創業。
2002年札幌洋菓子協会会長に就任、2006年スイーツ王国さっぽろ推進協議会会長に就任。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
経営目的は「社員とその家族の幸せを実現すること」
株式会社きのとやの創業(1983年)から33年が経過しました。創業から15年くらいの間は、会社を維持することに精いっぱいで、社員のことを深く考える余裕がありませんでした。しかし、ある程度経営が安定してきて余裕ができたころ、「なんのために会社をやっているのだろう」と考えはじめました。
これにはきっかけがありました。ある社員から「社長は何で『きのとや』をやってるんですか」と聞かれたのです。ありがたいこと、この問いかけをきっかけにして「そういえば俺は『きのとや』をなんのためにやってるんだろう」と、真剣に自らに問うようになっていきました。
「自分が金持ちになりたいと思ってやっているのか?いや決してそうじゃないよな」「もしそうだとしたら、いま会社を売ってしまったほうがメリットがあるかもしれないな」「でも自分のためかと問われればそうではないな」、じゃあ、何のためなんだろう・・・。
そして、最終的にたどり着いた答えは、「社員のため」でした。きのとやで働くことによって生活の糧を得ている社員が目の前にいるのです。私は、社員のためにきのとやをやっていると、実感したのです。
いい会社を作ることを社是にした時からすべてが変わった
そして、私は社是を「いい会社を作りましょう」に変えました。では、いい会社とはどういうことか。
1番目の条件は、「社員とその家族の幸せを実現すること」だと思っています。これが、きのとやが存在する一番の目的だと考えています。「お客さまに満足と感動を提供すること」は、2番目なんだと明確に示しました。
こうした考えが固まっていく中で、人件費とは経費ではなく、目的なのだということに思い至りました。人件費を増やすことこそが、当社の経営の目的であるという考え方です。人件費はコストダウンの対象ではなく、これを増やすことが会社の存在目的そのものです。
つまり、社員にどれだけ多くの給料を払っていける会社になるかが大切なのです。会社の存在目的はここにあるのだと思っています。
親子二代で実現する壮大な夢「札幌をスイーツの街にする」
2013年に、長男の真太郎がチーズタルト専門店を手掛けるBAKE(東京・目黒)を設立。彼は、仕事人間である私の後姿を見て育ちました。
彼が小学校高学年の頃、当社は食中毒事件を起こしました。彼は子供ながらに私の姿を見ていたのでしょう。そして、「札幌をスイーツ王国、菓子王国にするんだ」と業界の先頭に立つ私の姿も見ていました。後から聞くと、「自分もその手助けがしたい」と大学時代から言っていたようです。
彼が言うには、シアトル発祥のスターバックスコーヒーやタリーズコーヒーは、創業の店はたいしたことないけれど(笑)、世界中に店舗があり、今やシアトルは「コーヒーの街」になっている。「札幌をスイーツの街にする」には、世界に出るんだ。スタバだってタリーズだって、世界に出ることでシアトルをコーヒーの街にしたじゃないか。世界に出なければ、世界の人に認知されない。北海道をスイーツ王国にするためには、北海道で作ったスイーツを全世界に輸出していくべきだ、と。
私は、札幌をスイーツ王国、菓子王国にしたいと活動してきました。それを二代目である彼がさらに進めていこうとしています。
はえぬきの社長・専務・常務が私の誇り
現社長の佐藤誠は、今から30年前、毎日お店に来てくれていたお客さんからの紹介で入社しました。専務の中田英史は、学生時代にアルバイトをしていた縁で入社しました。常務の熊木真も20代後半に入社して、それ以来ずっと私と仕事をしてくれています。
この3人の足跡は、私の誇りです。30数年間私と一緒に仕事をしてくれて、今、社長・専務・常務をやってくれているわけですから。こんなに人材に恵まれているオーナー経営者は、そういないのではないでしょうか。私は本当に恵まれていると思います。
彼らが社長や専務、常務をやってくれていること、このような社員に恵まれたことが、私の誇りなのです。三人三様ですが、基本的に皆真面目で、裏表なく、20代そこそこの社会人経験ないなかで入社してきて、その後長沼イズムがずーっと浸透していっている。
そして今、私が目指してきた経営を忠実に守り、業績を伸ばし続けてくれている。長沼昭夫という人間が20歳くらい若返って仕事をしている、そういう感じです。さらにその20歳位下に、BAKE社長である長沼真太郎がいる。20歳ずつ世代のギャップがあって、事業が承継されていく。そんな形になっています。