さっぽろ高齢者福祉生活協同組合
中村一也さん(仮名・総合職) 44歳
法人営業職から高齢者住宅の運営管理へ。経験より人物と志望意欲重視で挑戦できた。
担い手不足が課題となっている高齢者福祉業界。最近では、異業種から転職する人も増えているようだ。札幌市内の高齢者福祉施設でフロントリーダーを務めている中村さんもその1人。前職は印刷会社の法人営業として約20年にわたって活躍し、会社からも評価されていたが、40歳を目前にした頃から、「残りの人生、このままでいいのか?」と感じるようになったという。「もっと社会貢献を実感できる仕事がしたい。もっとダイレクトに喜ばれたい」。そんな思いを募らせた中村さんは40歳の時に転職活動を開始。リージョナルキャリア北海道を通じて、未経験者にも門戸を広く開放している現在の職場と出会った。「介護や法律など、いろいろなことが学べるし、いろいろな経験が活きる世界。異業種から飛び込んでも活躍できるチャンスはある」と話す中村さんに、転職体験談をうかがった。(※本記事の内容は、2022年10月取材時点の情報に基づき構成しています)
- 転職回数
- 1回
- 転職期間
- エントリーから内定まで230日間
転職前
- 業種
- 印刷関連
- 職種
- 営業管理職
- 業務内容
- 営業およびメンバーのマネジメント
転職後
- 業種
- 高齢者住宅事業
- 職種
- 総合職
- 業務内容
- 主に高齢者住宅の運営管理業務
40歳を前に感じた、むなしさと焦り。「自分が動かなければ、何も変わらない」
現在のお仕事はどんな内容ですか?
さっぽろ高齢者福祉生活協同組合(略称:福祉生協イリス)が経営するサービス付き高齢者向け住宅で、フロントリーダーをしています。
180名以上のご入居者の見守りや、日々の安否確認。それから日常生活でのちょっとした相談から、後見人制度や遺言作成といった相談まで様々な事に対応しています。さらには職員のマネジメントや設備修繕なども含め、施設の運営管理全般に携わっています。
入社前のご経歴を教えてください。
札幌の大学を卒業後、市内の印刷会社に就職し、約20年間、営業として働いていました。法人を対象に、チラシやパンフレット、ホームページなどの受注活動や提案・制作に携わっていました。
転職のきっかけは?
40歳になる前くらいからでしょうか、「自分の人生、このままでいいのかな?」と思うようになったんです。印刷営業は自分の仕事の成果が形として残る、楽しい仕事ではあったのですが、もっと社会貢献を実感できる仕事がしたくなったんです。
法人営業にむなしさを感じたといいますか…。法人営業は主に利潤を追求して自社に貢献する仕事で、判断の基準は常に、メリットがあるかどうかです。一方、営業ノルマは前年の数字にプラス何%かずつ上積みされていく形で、毎年上がっていきます。これからもそれがずっと続くと思うと、「それがこれからの自分のモチベーションになりえるのか?」と疑問を持つようになったんですよ。
もっと個人のお客様にダイレクトに喜ばれる仕事がしたい―そう思うようになったんです。そんなとき、周囲では若くして病気で亡くなる人もいたりして、残りの人生を真剣に考えるようになりました。自分から動かないと、あっという間に月日が流れていく。そう思ったので、40歳から転職活動を始めることにしました。
転職活動はどのように進めましたか?
まずは大手の転職サイトを見て、探し始めました。業種は、社会貢献を実感できる仕事ということで、高齢者福祉の業界に絞りましたが、専門色が強い業界ですよね。40歳の自分が今から介護職は難しいと思い、当初は福祉用具の会社の営業職にいくつかエントリーしましたが、全部だめでした。
そこで活動がいったん途切れ、「どうしようかな?」と方向性を悩んでいた時に、妻が以前転職した際に利用していたリージョナルキャリア北海道のことを思い出したんですよ。
リージョナルキャリア北海道のサイトで、今の職場の求人情報を見つけて、エントリー。その後すぐに面接があって、採用してもらいました。大手のサイトは札幌市内の求人が少なかったのですが、リージョナルキャリア北海道のサイトには地元の情報がたくさんあったので助かりました。
今の会社に決めたポイントは?
まずは、専門職ではなく、「総合職」としての募集だったことが大きかったですね。特に仕事内容が「入居相談」となっていたので、今までの経験が役に立つかもしれないと感じました。
また求人票に、「あえて業界未経験で、学習意欲が高い人を採用したい」と書かれていたことにも勇気づけられました。ここだったら、異業種からでもチャレンジできるかもしれないと思いました。
実際に、面接も人物重視の印象でしたね。また、事業展開しているエリアが札幌市内だったことも決め手になったと思います。就業場所が東区か白石区だったので、人生設計がしやすいと思いました。収入は下がりましたが、それは覚悟していましたし、前職からかけ離れた条件ではなかったので、ありがたかったです。
意外と活かせた、営業経験。プライベートな時間が増え、妻も大喜び。
転職していかがですか?
最初は「入居相談」の仕事からスタートしました。初めての事づくしでしたが、思っていたよりも順調でした。前職との共通項が意外に多かったんですよ。
前職のときも「形のないもの」を求められてきましたし、お客様がどういう生活を送りたいのか、どういう場所に住みたいのか、なにを大切にしたいのか、といった要望を聞きだしていく仕事は営業のときの経験を活かせました。
職場の人間関係も問題なかったです。この施設には介護職や事務職、清掃スタッフなど多職種の人たちが働いていますが、印刷会社も似ています。デザイナー、工場スタッフ、配送スタッフなど、いろんなタイプの人たちの間で仕事をしていましたので、その点でも前職での経験が活きたと思います。
転職して良かったと思うことは?
日々、学びを経験させてもらえることですね。福祉や介護についての研修はもちろん、後見人制度や遺言状など法律に関することを、弁護士さんから直接教えていただく機会もあります。本当に幅広い勉強ができる職場だなと思いました。
しかも、社会福祉士の資格を取得するための実習にも、行かせてもらえました。期間は24日間で、そんなに実習に時間をさける職場なんて、なかなかないですよね。本当にありがたかったです。
転職の動機だった「もっとダイレクトに社会貢献したい」という思いも、完全に満たされました。「わかりやすく教えてくれてありがとう」「あなたがいてくれて、助かるわ」といった言葉をかけていただき、やりがいを感じています。
ご入居までのプロセスには、お一人お一人、ドラマがあるんです。人生の大きな節目に立ち会わせていただいている実感があります。入居者の皆さんやそのご家族がより良い生活を送れるようお手伝いできることは、今までの法人営業の仕事では味わえなかった喜びです。
困っていることや課題はありますか?
最初は専門用語がまったくわかりませんでした。1か月間の介護職員初任者研修を受けたのですが、仕事を始めた当初は戸惑うことが多かったですね。
特に苦戦したのは、言葉づかい。法人営業時代のくせが残っていて、どうしても硬くなっちゃうんですよ。入居検討のおばあちゃんと話すときにもつい、「手前ども」とか言ってしまって、微妙な空気になったことが多々ありました(笑)。
生活面の変化はありましたか?
以前はバスで通勤していましたが、今は車通勤になりました。引っ越しはしておらず、通勤時間はあまり変わっていませんが、帰るのは早くなりましたね。前職時代はほぼ毎日、帰宅時間が22時を過ぎていて、若いときは平気でしたが、40歳近くになるとしんどかったですね。
でも今は、19時には帰宅する事が多くなって、夕食を夫婦で一緒に食べる機会も増えました。妻からは、「まさか一緒に晩ごはんを食べられる生活になるとは思わなかった」と言われました(笑)。
夕食後や平日休みのときには、家事をすることもグンと増えましたよ。だから妻はかなり喜んでいますね(笑)。また、増えた自由時間を活かして、社会福祉士の資格の勉強も始めました。
転職を考えている人にアドバイスをお願いします。
私は転職するまで、高齢の方と接する機会はほとんどありませんでした。ですから業界に興味はあるものの、「本当に自分にできるのか?」と、不安も感じていたんです。それで転職活動をする前に、確かめに行ったんですよ。
老人保健施設で1日、ボランティアをしてみて、まったく違和感がなかったので転職活動に踏み切れました。つまり転職する前に客観的に自分自身を見つめて、転職してもすぐに貢献できるイメージができるかどうかが大事なのかなと思います。
一方、高齢者福祉の業界は専門色が強い業界ではありますが、未経験でも異業種で培ってきた経験を活かして活躍できるチャンスは十分あると思います。私たちの組合のように未経験者に門戸を開いている法人もたくさんあると思いますので、選択肢の1つとして検討していただければと思います。