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宇宙遊覧で培った技術を、有人宇宙輸送へ。岩谷技研が挑む国家プロジェクト。
株式会社岩谷技研
代表取締役 岩谷 圭介
1986年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業。大学在学中の2011年から気球の研究に着手し、2016年に岩谷技研を設立。2020年に有人気球による宇宙遊覧装置の開発を開始し、2024年7月には国内で初めて高度20kmを超える有人テストフライトに成功した。有人・無人を合わせて500回を超える飛行試験を重ね、現在は宇宙遊覧フライトの商用運航を目指している。著書やメディア出演、講演実績も多数。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
この記事でわかること
- 気球研究から有人宇宙遊覧へ発展した岩谷技研の技術
- 宇宙遊覧で培った安全技術を、有人宇宙輸送へ展開
- 約50人の企業が挑む、日本の有人宇宙船の安全基準づくり
- 異業種から集まった仲間が、バイタリティで未知の課題に挑む
- 少人数の環境を生かし、宇宙業界で代えの利かない人材に
まだ知らない世界を、自分の目で見てみたい。
子どもの頃から人が行ったことのない世界や、限界の先にあるものに惹かれていました。科学の力や人の知恵、少しの勇気によって、見えなかった世界が広がっていく。そういったものに、ずっとワクワクしていました。
高校生の頃には「もうすぐ宇宙旅行ができるようになる」と言われていて、私も楽しみにしていましたが、待っていてもなかなか実現しません。それなら、自分でやってみたいと考えるようになりました。
北海道大学では工学部の機械系に進み、航空宇宙についても学びました。ただ、ロケットで宇宙を目指すには莫大な予算が必要です。個人はもちろん、会社をつくっても簡単に挑めるものではありません。
そこで選んだのが気球でした。ロケットほど大きな予算を必要とせず、自分たちで試験を重ねられる。宇宙空間までは行けなくても、成層圏まで上がれば宇宙に近い景色を見ることができます。
気球の研究から、人が宇宙を体験できる会社へ。

大学在学中の2011年から、気球を使って宇宙を目指す研究を始めました。気球を飛ばして結果を確かめ、次はより大きな装置へと改良を重ねる。その試行錯誤の中で「装置を大きくし、安全に人が乗れるようにすれば、成層圏の景色を自分の目で見て帰ってこられるのではないか」と考えるようになりました。
2016年に岩谷技研を設立し、2020年には有人気球による宇宙遊覧装置の開発を始めました。人を乗せるには、気球を高く飛ばすだけでは足りません。真空に近い環境でも過ごせる「与圧キャビン」をつくり、生命維持装置や気圧を管理する仕組み、乗り降りするためのハッチなどを備える必要があります。
気球本体から搭乗装置まで自分たちで開発し、飛行試験を重ねてきました。2024年7月には、このキャビンを使って高度20kmを超える有人テストフライトに成功しました。
高度18〜19km付近から上は人が生身では過ごせない領域です。大学で始めた研究は、気球に人を乗せて成層圏まで運び、安全に地上へ戻す技術の開発にまで発展しました。
JAXAの一言から、気球の技術を有人宇宙船へ。
宇宙遊覧に向けた開発を進める中で、私たちがつくった与圧キャビンを、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員が見学に来ました。
キャビンを見て、「これを載せれば、サブオービタル飛行にも使えるのではないか」と盛り上がっていました。サブオービタル飛行とは、ロケットなどを用いて地球を周回せずに宇宙空間へ到達し、地上へ戻る飛行です。
宇宙の専門家から見ても、自分たちの技術が通用する。エンジニアとして、これほど嬉しいことはありませんでした。ちょうどその頃、国も有人宇宙輸送の実現に向けて動き始めていました。
これまで積み上げてきた技術を、日本でまだ実現していない有人宇宙輸送に生かせるなら、ぜひ挑戦したい。関係者との話を重ねる中で、有人宇宙船の技術開発に取り組むことを決めました。
私たちが取り組むのは、宇宙船そのものをつくることではありません。宇宙遊覧で培ってきた、人が真空に近い環境で安全に過ごせる技術を有人宇宙船にも生かしていきます。
さらに、そこで得た知見を宇宙遊覧のキャビンに生かせば、安全性をより高めることができます。私たちにとって、有人宇宙船の技術開発は宇宙遊覧を前進させる大きな追い風でもあるのです。
日本の有人宇宙船の基準を、ゼロからつくる。

現在、私たちは宇宙戦略基金に採択された、有人宇宙輸送の安全を支える技術と基準をつくるプロジェクトで代表機関を務めています。
日本では、有人宇宙船の具体的なミッションがこれまで想定されてきませんでした。何のために飛ぶのか。非常時には何を優先し、どう安全を確保するのか。宇宙船の具体的な開発に入る前に、まずその考え方から定める必要があります。
国から求められているのは、「日本のスタンダードをつくる」ことです。私たちは50人ほどの会社ですが、プロジェクト全体を取りまとめる代表機関として、各社の役割や進捗を管理しています。
いまは、成果よりも期待で評価していただいている「信頼の前借り」の状態です。計画通りにプロジェクトを進められるかが問われています。日本にまだ基準がない段階から、その土台をつくれることに、このプロジェクトの面白さを感じています。
共に技術開発を行い、頼られる存在となる。
私たちが目指しているのは、ロケット事業者の開発に早い段階から加わり、人が宇宙で生きるための装置や安全技術を一緒につくっていくことです。開発委託を受け、プロトタイプや試作モデル、最終的な設計までを担います。完成した製品を提供するだけではなく、相手の計画そのものに加わる立場です。
将来的な量産は、設備と知見を持つ重工メーカーなどに任せるのが最も現実的だと考えています。会社や自分の名前が残ることは、それほど重要ではありません。将来、誰も私たちを覚えていなくても、つくった技術が誰かの役に立てばいい。
先人が残した技術の上に私たちが立っているように、次の世代が使えるものを残したい。社名を「気球」や「宇宙」ではなく「岩谷技研」としたのも、特定の分野に限らずに技術を研究する会社でありたいからです。
異業種から、日本にまだいない専門家になる。

現在のメンバーに、宇宙や気球の経験者はほぼいません。自動車や化学など、異なる業界で経験を積んだメンバーが今の組織をつくってきました。国内には気球を体系的に学べる場所がなく、有人宇宙船の開発経験者もいません。
求めているのは今持っている知識や能力よりも、まずバイタリティです。前例のない課題に対して、なぜその技術や試験が必要なのかを考え、限られたリソースを最大限に活用して形にしていく。そんな挑戦をやってみたいという想いがあれば、能力は後からついてきます。
50人ほどの会社なので、開発だけでなく、経理や資金調達、営業がどう動いているかまで見えます。その分、短期間に経験することも多く、社員からは「半年や1年が、5年分に感じる」と言われることがあります。
岩谷技研というフィールドをうまく使って、宇宙業界において代えが利かない人材、キーマンになってほしい。ここで自分がやりたいことを実現できると思ってもらえるなら、ぜひ力を貸してほしいです。