合言葉は「ナイストライ」。圧倒的な独自性で「世界に挑戦する12歳」を育成。
学校法人田中学園
田中学園立命館慶祥小学校 校長 吉田 恒
空知で幼少期を過ごし、大学は神戸の外国語大学に進む。卒業後、立命館慶祥中学校・高等学校で英語教師として生徒指導にあたる。外国語科主任、学年主任(中1~高3)を歴任した後、新海外研修委員会委員長、国内・海外入試事務局長など教壇の外の業務も経験し、私学人としての視野と姿勢を学ぶ。また、在職中に応用言語学の分野で修士課程を修了。2020年より、初等教育に力を尽くしたいとの想いを持った田中賢介氏とともに、田中学園立命館慶祥小学校の開校準備にあたる。2022年、同校の初代校長に就任。当時、40代半ばの校長就任は北海道内最年少。開校後は、オリジナリティー溢れる構想力で学校運営にあたる。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
70年ぶりに開校した、オンリーワンの私立小学校。
田中学園立命館慶祥小学校の開校は2022年4月。北海道での私立小学校誕生は、約70年ぶりです。理事長は日本ハムファイターズに入団し、アメリカのMLBにも挑戦、日米通算で19年にわたり活躍した田中賢介です。
現役引退後に初等教育の重要性を強く感じた田中は、小学校の開設に取り組み、道内有数の中高一貫進学校である立命館慶祥中学校・高等学校と提携する形で、田中学園立命館慶祥小学校が誕生しました。
私は立命館慶祥中学校・高等学校の英語教諭として社会人のキャリアをスタートさせ、その後、同校の新海外研修委員長や国内・海外入試事務局長を歴任。特に入試広報の経験は私学人としての私の視座を高めてくれたと思います。
公立校と私学の最大の違いは、「児童・生徒募集が経営に影響する」という点です。私学の命運を握る入試関連に携わっていると、必然的に経営にも目を配ることになります。
質の高い教育を提供しなければ、児童は学びに魅力を感じない。そして、質の高い教育は教員の熱意と、それを公正に評価する職場環境から生まれる。そのようなことを学びました。魂が磨かれるような仕事の積み重ねが、私学人として大いに成長させてくれました。
その後、理事長の田中と出会い、2020年ころから共に立命館慶祥小学校の開校に向け準備してきました。「Challenge with Dream」の気持ちで世界に羽ばたく子どもを育てたい。「学ぶを、しあわせに。」という建学の精神と、「世界に挑戦する12歳」という教育理念・目標には、田中のそんな想いが込められています。
失敗したときこそ「ナイストライ」。
「学ぶを、しあわせに。」という建学の精神の根底には、「人間は好きなことをやっている時に、一番パフォーマンスが上がる」という思いがあります。児童に好きなことをやりきってもらうため、全国を見渡してもこの学校にしかない、圧倒的なオリジナリティーをいつも追求しています。これが、児童と保護者に本校を選んでもらえる、最大の要因になっています。
1年を4タームに分けた学期制で、各タームの終了時には児童・保護者との面談を行い、成果と次のタームに向けた目標を確認し合います。また「自学自習」を促し、児童が必要な学習を自主的に進められるようサポートしています。
国際教育という点では、体育・音楽などの実技教科をすべて英語で行うイマージョン教育を導入。通常の英語の授業も含め、6年で約2,000コマが英語で行われ、ネイティブ教員は各学年に1人ずつ配置されて休み時間やランチタイムも児童と一緒に過ごします。高学年になると複数のコースから任意で選ぶ海外研修もあります。
「LINK」という探究学習も採り入れています。これは児童が学年の壁を超えてグループを作り、会社運営を経験しながら社会問題に対して行動するものです。各社には実際に資金が渡され、イベントの開催や事業の推進を児童たち自身が決断します。LINKに出資してくれている地元企業のイベントを児童たちが手伝い、その際に得た利益を会社の運用資金に回す、といった体験も積みます。
また本校は、日本の小学校で唯一「Microsoft Showcase School 2023-2024」に認定されるなど、ICT教育にも力を入れています。この点を活かし、LINKにおいてもTeamsをプラットフォームとしてWord、Excel、PowerPointなどのMSアプリを使って情報共有し、作業効率を上げています。
「世界に挑戦」するためには、英語力や学力ばかりではなく、感情をコントロールする力も重要です。そこで本校では、マインドフルネスを習慣化する試みも行っています。授業や集会の始まる前の1分間に、息を5秒吸って10秒吐く×4セットの「T-Breath」を行っています。
本校では授業が始まっても、教師が「静かに」と指示することはありません。T-BreathのBGMが流れると、児童は静かにそれぞれ呼吸を始めます。これにより、児童たちは落ち着いて行動でき、的確で早く動けるようになりました。授業や活動の質も向上しました。
失敗した時、「ドンマイ、気にするな」と慰める人は多いですよね。しかし私たちは「ナイストライ」と声を掛け合います。失敗は、頑張っているからこそ生まれるもの。その頑張りこそがより重要といえるでしょう。
これは児童に限りません。オリジナルにこだわったプログラムにチャレンジしていると、教師であっても失敗はあります。その時も「ナイストライ」です。保護者の方々にも、「お子さんに対しても教員に対しても、失敗した時は“ナイストライ”と声をかけてください」とお願いしています。
ゼロからイチを生み出す能力が必要。
受験で競合する学校がなく、オリジナリティーをいかんなく追求できる本校で求められるのは、ゼロからイチを生み出す能力です。
運動会にしても、本校では教員が独自にプログラムを考えるのは当然。さらに、どれほどうまくいった運動会でも翌年には最低30%の改変をマストにしています。教員を目指す方は、リスクの高そうなチャレンジを避ける傾向があるかもしれません。
しかし本校は、あえてコンフォートゾーンを抜け出し、チェンジメーキングすることを求めるわけです。その方が児童は面白いし、自身にとっても新たな可能性が開けて、楽しいじゃないですか。
その代わり、どの教員、どの部署から上がってきた企画書も原則としてリジェクトはしません。やりたいならやろう、とすべて受け入れます。その結果、大失敗して、どれほどクレームが来ようと、私を始め管理職層ですべて防波堤になる。だからやりたいことをどんどん出して、と言っています。
本校で働く教職員は、全員この職場を第一希望として選んでくれた人ばかりです。子どもが好きで、愛情が子どもと共に働く同僚にまっすぐ向かっている。それを原動力に、「子どものためにやりたいことを実現したい」という熱意を持っている。そんな人を見定め、本校にお迎えするのが私の役割です。
他にはない教育環境。
本校には「ブランディング部」が設置されており、専任のブランディング部長がいます。この部が担当するのは、「学校と教員のブランド化」です。学内掲示物や児童に渡すプリントなど、目に触れるものはすべて色やデザインがTanakaカラーで統一されています。
ブランディング部主導で、教員のドレスコードも策定しました。別に高級品を身に着けたり、堅苦しい格好を強制するわけではありません。スマートに、安心感を与える外見を心がけてほしいということです。
「教員が見た目を気にするなんて」と言う人もいるかもしれませんが、教員の身だしなみや振る舞いも本校にとっては重要な要素です。私たちはプロ私学人の集団ですし、また、イベントや学外での活動、一般企業の方々との接点も多い学校です。安心感を与える格好をし、背筋をピンと伸ばして教育にあたる、仕事にあたる姿勢が大事だと考えています。その姿を見て、児童は「かっこいいな」と親しみを覚えてくれます。
「ミエル部」という組織も、恐らく本校独自でしょう。ミエル部とは言葉通り、見えないものをビジュアライズしようというミッションを担っています。一般に「非認知能力」と言われますが、この能力は本当に認知できないのか、見えるようにできるのではないか、というところから、この部はスタートしました。
T-Breathについて実践法を考えたのもミエル部です。科学的な根拠や効能は「非認知」ですが、世界の一流人たちがやっているなら、まずやってみようという取り組みです。
余計な雑務がないので、子どもとしっかり向き合える。
教職員の研修や評価などでも、独自の制度を整えています。本校では例えば、大手代理店からクリエイティブマネージャーをインストラクターにお招きした教員研修を実施しました。テーマは「ゼロからイチを生み出すためのマインドセット」です。トップ企業の新たな価値を作り出すノウハウを学ぶことで、授業や学校運営に活かしてほしい、との思いがありました。
人事評価も教職員のパフォーマンスをしっかり判断できるよう仕組みを作り上げました。経験や能力に加え、日々の挑戦を正当に評価する、安心感と納得感のベストミックスを考えた枠組みになっています。
また本校の教職員は、17~18時になったらみな退勤します。残業はほとんどありません。決められた時間の中で最大限のパフォーマンスを発揮するよう工夫するのも、クリエイティビティの一つです。
多様なバックグランドや国籍のスタッフ集団ですから、時間を有効に、そしていい仕事をして、またいいプライベートの時間も過ごすことを奨励しています。元気で幸せな教職員が、次の日も明るく教育にあたってくれるのです。
余計な雑務を極力減らし、目的の定かでない研究会や研修会などもなくし、また、すべての教職員が高いICTスキルを活用し日々情報共有を行っているため、定例の会議は最終確認だけで済みます。勤務時間の大半を児童と向き合うことにあてられます。
田中学園には「7 way」という行動指針があり、本校でもいつも目に入る位置に掲示しています。例えば「教育に協育を」「挑戦に伴走を」「チームにシナジーを」といった内容で、個性的で多様なメンバーを一つにまとめています。
学園・学校の目的・目標・哲学を全員がよく理解しているからこそ、教職員は個性的ながらも、力を合わせ心ひとつに教育を前進させることができるのです。
世界に挑戦する子どもたちのために。
田中学園立命館慶祥小学校は1学年あたり教員が4人なので、全体で30人程度の組織です。決して大きな組織ではないからこそ、一人ひとりのプレゼンスが高くなります。そうなると、シナジーの生み出せるメンバーが揃っているかどうかがとても重要です。
1クラス26人の1学年2クラス制。6学年12クラスというのはとてもよいバランスなので、これ以上学校の規模を大きくするつもりはありません。規模はこのままで、ゼロからイチの創造を究極に続けていこうと思います。
そのためには、児童が好き・教えることが好きという想いを原動力に、挑戦し続ける教職員が欠かせません。理事長や私が前面に出るのではなく、側面から教職員にスポットライトを当てていきたい。そして教職員が自身のバリューを高めようとする際の縁の下の力持ちでありたいと考えています。
児童が確かなアウトカムを得て、世界に羽ばたいていく。その成長を支えるため、私たちは全力で挑戦し続けます。