エッジAI技術で社会のAI実装を推進し、様々な課題を解決する。
AWL株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 北出 宗治
1978年、北海道苫小牧市生まれ。大学在学中からインターネットビジネスを始める。卒業後は米コンサルティング会社(D.C.)、米レコード会社(N.Y.C)にてWEBマーケティングおよびコンサルティングを担当。帰国後、マンツーマン英会話のGABA社のIT部署の立ち上げに参画。WEBマーケティング部を統括し、同社の上場に貢献。その後、ライブドア社にてメディア事業部マネジャーとして多数の事業立ち上げを経験したのち、2006年に独立。GMOインターネット社とのJV設立(取締役)や、電通アイソバー社のパートナーとして大手企業を中心としたコンサルティング、多様な業種、規模感におけるITを活用したサービス、事業、会社立ち上げのプロデュースを行う。2015年に北海道大学川村教授との出会いをきっかけにAIの社会実装を推進すべく、2016年6月にAWL株式会社(旧AI TOKYO LAB株式会社)を創業。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
AIカメラをコアとした、各種ソリューションを提供。
私たちAWL(アウル)が展開しているのは、エッジAI技術を使った映像解析ソリューションです。コンビニ・スーパー・レストラン・カフェなどのリアル店舗や、オフィス、工場、倉庫といったさまざまな場所には、防犯用のカメラが設置されています。これら既設カメラのAI化を実現するのが、当社の提供するエッジAIデバイス「AWLBOX」です。
カメラが捉えた映像をAIで分析することで、防犯上のアラートを出すのはもちろん、店内の人流予測や品出し、人員配置といった業務効率化にも貢献できます。
もう一つ、主力となっているのが、デジタルサイネージの販促効果を可視化する「AWL Lite」です。これは、モニタに投影される広告を「どんな属性の人が、何秒見ているか」などを詳細に分析するシステムで、デジタルサイネージの価値を大きく向上させられます。このように、私たちはエッジAI+カメラという技術をドメインに事業を推進しています。
「社会へのAI実装」に大きな可能性を感じた。
かつて私は米国企業に勤め、Webマーケティングやコンサルティングを行っていました。帰国後は、英会話学校のGABAとライブドアでWebマーケティングや新規事業の立ち上げを担当。2006年に独立し、ITを活用した事業の立ち上げや、コンサルティングに多数携わりました。
AWL創業のきっかけとなったのは、2015年の北海道大学の川村教授との出会いです。取引先のある大手電機メーカーから「AIを使って何かできないか?」という要望を受けたのですが、当時の私はAIに関する知識がほとんどありません。そこで、詳しい人の話が聞きたいと知人に相談したところ、川村教授を紹介されたのです。
その際、教授から「これからは『リアル(フィジカル)空間へのAI実装』がキーワードになる」という話を聞いて、大変魅力を感じました。「インターネットはIT(サイバー)空間を大きく変えたけれど、リアル(フィジカル)空間へのAI実装は、それと同じぐらいのインパクトを持つイノベーションなのではないか」と直感したのです。
私はすぐ、川村教授のアドバイスをもとに、「AIでこんなことができそうだ」と大手電機メーカーに提案。その案件が受注となり、事業を本格的にスタートさせるため2016年に立ち上げたのが、AWLです。最初は、私と川村教授、その他3名のビジネスパートナーという体制で社員ゼロからスタートしました。その後、2017年には現CTOの土田がメンバーに加わり、組織化が加速しました。
AIカメラを、エッジAI技術で実現する。
当初は「社会(リアル空間)へのAI実装」を軸として、色々な案件を手がけていました。そんな中、ドラッグストアをチェーン展開する大手企業から「AIカメラを導入しているが、コストが高くて使い勝手は今一つ」という不満をうかがいました。
話を聞いてみると、防犯カメラでとらえた映像を単に防犯用に録り溜めするだけでなく、来店者分析や動線把握といったマーケティングに使い始めた、ということでした。しかしそのシステムは容量の重い映像データをすべてクラウドに送って分析するというもので、1店舗あたりの費用も、店舗運営にとっては高額なものとなっていることを知ったのです。
私は、このAIカメラにポテンシャルを感じました。今や多くの店舗に防犯カメラが設置されています。このカメラをAI化すれば、店舗でできることが格段に増えるはずです。AIや映像解析の開発バックグラウンドのあるCTOの土田が加わったことで、具体的なソリューションの検討が進みだしました。
そのドラッグストアチェーンが使っていたクラウドタイプのシステムでは、コストの削減に限界があったため、私たちが選択したのは「エッジAI」という、現場に設置したデバイスで解析まで完結させるアーキテクトでした。
クラウドに情報を送らないので、サーバーコストが削減できるだけでなく、情報漏えいリスクも低減できます。遅延が発生しない分、情報分析から各店舗に必要なアラートを出すまでのレスポンスタイムも、大幅に向上するはずです。
大半がクラウドに向かう中、あえて「逆張り」に挑む。
エッジAI技術を使えば、コスト面でもドラッグストアチェーンの要望に応えられる見込みが立ち、早速具体的な開発に着手しました。そして、「このシステムを受け入れてくれるカスタマーは多いだろう」という手応えを得たことで、他に手がけていた受託開発案件は事業譲渡し、エッジAIカメラにリソースを集約させました。
2017~2018年頃はクラウド全盛で、オンプレミス型システムでやると言ったらバカにされていた時代でした。しかしクラウドには、サーバー維持に莫大なコストがかかるというデメリットがあります。これに対しエッジ型はコストメリットが大きく、プライバシー保護、レスポンススピードの観点から優位性がありました。
そこで、私たちは「逆張り」を行ったのです。大手がクラウドを使う中、私たちは独自にエッジAIに関するノウハウを蓄積してきました。
今や「何でもクラウド」の時代は過ぎ、「実社会におけるAI実装の主流はエッジAIになる」と言われ始めています。エッジAIに関する十分な技術を持つ大手企業はそれほど多くなく、当社に相談を持ちかけられるケースも増えています。私たちの逆張りは正しかったと実感しています。
非リテール分野、そして海外にも進出。
受託事業を売却し、AIカメラ事業に一本化したのが2019年。それから、主に小売分野におけるAIカメラの導入を図ってきました。さまざまな店舗にご利用いただくことで、当社も多くの経験が蓄積でき、この分野でのモデルはかなり確立できたと思います。
しかし、AIカメラの需要は決して小売分野に限ったものではありません。一般のオフィスや工場、学校といった分野でも活用できます。銀行のATMや車内のドライブレコーダ、ドローンなどと連携させた利用法もあり得るでしょう。これらの非リテール分野への導入・浸透を図っていくのが今後の目標です。
非リテール分野への展開については、多くの大手企業から「一緒にやらないか」と声をかけてもらっています。もちろんそうした企業との連携も進めていきますが、エッジAIはまだまだ黎明期で、詳しく分かっている人は多くはありません。
大手に頼り切るのではなく、「私たちが主導するのだ」という意識で取り組まなければなりません。スピード感を持って動けば、機会をつかめるはずです。モデルケースを自分たちである程度作っておけば、協力してくれる大手企業も動きやすくなるでしょう。
もう一つ、海外進出にも力を入れます。2024年には、現地パートナーとともにインドネシアで小売向けAIカメラのサービス提供が決まっています。まずは、国内で既に実績のある小売向けのシステムを展開しつつ、非リテール分野のニーズも積極的に取り込んでいきます。
信頼のおけるパートナーが見つかれば、別の国にも広げていくつもりです。将来的には海外でスタートしたサービスを日本に逆輸入する、といったケースも出てくるかもしれません。
求心力あるAIソリューションで、エンジニアの意欲を刺激する。
当社が早くから開発拠点をベトナムに立ち上げていた縁で、現地にはハノイ工科大学の学生がインターンとして来て、多くのスタッフがそのまま就職します。また、インド工科大学をはじめとする海外トップ校のインターン先としてもAWLは結構人気があり、日本の企業としてはトップ3に入るくらいです。
ハノイもインドも、それそれの国のトップクラス人材が集まる工科大学ですが、そこで学ぶ優秀な学生がAWLに来て、何人も就職もしてくれるのだから、大変貴重な戦力だと思います。
このように、当社は早くから人材のグローバル化を実現していました。現在も、複数の国からのインターンやJICA、MEXTの留学生などが集い、約20ヶ国からのメンバーが集まる会社、という流れができています。やはり、最先端のAIに携わることができるという点が、技術系の学生の意欲を刺激するようです。
しかし、人材の確保については決して安閑としていられる状況ではありません。特にグローバルでの採用となると、競争が激しいだけでなく、円安の影響が出てきてしまいます。きちんと報酬を払えるなど、資金面での体力を維持する努力も欠かせません。
何より重要なのは、求心力のあるAIプロダクトを創造し続けることです。「このAIソリューション、面白いよね」「他にはないよね」と感じてくれれば、エンジニアはやる気をかきたてられます。そういったエンジニアが高い技術を発揮してくれることで、当社の生み出すAIプロダクトの魅力がさらに向上します。
プロダクトがエンジニアを呼び、エンジニアがプロダクトの価値を高める。この好循環がAWLの求心力となっているのです。AIカメラをコアとした当社の事業は、大きく化ける可能性があります。飛躍を実現するには、さらに多くの人材が不可欠です。「社会へのAI実装」を追求し続けたいという、意欲と志を持った方をお待ちしています。