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牛乳にも卵にもこだわった本気の美味しさを、北海道から世界に発信したい。

北海道コンフェクトグループ株式会社
代表取締役 長沼 真太郎

更新日:2024年3月20日

1986年生まれ。2010年、慶應義塾大学を卒業後、丸紅に就職し、国内営業などに従事。2011年、同社を退社。上海でのお菓子作りプロジェクトに参画後、父の経営する株式会社きのとやに入社。2012年、新千歳空港店の店長として「焼きたてチーズタルト」を大ヒットに導く。2013年、再び東京に進出し、株式会社BAKEを創業、代表取締役に就任する。「焼きたてチーズタルト」に加え「クロッカンシュー ザクザク」「RINGO」「PRESS BUTTER SAND」などのブランド開発にも成功し、国内外に数十店舗を展開。2017年、BAKEの株式をファンドに売却し、経営から退く。2020年、株式会社ユートピアアグリカルチャーの代表取締役に就任。現在は、北海道コンフェクトグループ株式会社の代表取締役を始め、株式会社COC、北の食品株式会社の代表取締役を務める。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

洋菓子で何か新しいことを始めたい。

私はデコレーションケーキやバームクーヘン、焼きたてチーズタルトなど洋菓子の製造・販売会社「きのとや」を経営する長沼昭夫の長男として生まれ、高校まではずっと野球をやって過ごしていました。大学に入っても野球を続けるつもりだったのですが、途中で諦めました。

代わって大学では起業サークルなどのコミュニティに属し、東大や早大といった学生たちと一緒にベンチャー企業の走りみたいな活動をしました。知り合った仲間は卒業後に起業した者も多く、上場した会社もあります。彼らとは今でもつながりがあり、いつも刺激を受けています。

就活の頃には、きのとやを継ぐのではなく、自分で「お菓子で新しいことをやりたい」と決めていました。それも起業サークルで出会った仲間の影響があったのは確かです。彼らがIT系でスタートアップを目指すなら、自分はアドバンテージのある洋菓子の分野で何かを仕掛けたいと考えたのです。

就職先に丸紅を選んだのも、総合商社の中でお菓子のシェアが一番高かったからです。ですが結局、1年で丸紅を辞めました。

自分としては10年くらい修業するつもりだったのですが、その頃、きのとやが香港の投資家から「上海に作る牧場の牛乳を使ってお菓子を作りたい」というオファーをいただいていたのです。父から、「この話に興味があるか?」と聞かれた私は丸紅を辞め、上海に飛ぶことにしました。

しかし、プロジェクトは約半年で頓挫。洋菓子で何かやりたいという熱意はあったものの、実際にお菓子を作っていたわけではない私の力不足でした。行く当てのなくなった私は、父に頭を下げ、きのとやに入社させてもらいました。

売り方を変えたことで、チーズタルトが大ヒット。

父から任されたのは、新千歳空港店です。『KINOTOYA 2』という新ブランド店だったのですが、1日5万円も売れない苦しい運営状況でした。父としては、「私がヘマしたとしてもこれより最悪な状況はないし、うまく行けば儲けもの」くらいの気持ちだったのかもしれません。「何をやってもいいので、何とかしろ」と言われました。

再建のため、私は従業員に、どの商品が好きか聞いてみました。すると圧倒的に支持が高かったのが、ショーケースの中に冷蔵で売っていたチーズタルトでした。実は私も、きのとやの作るチーズタルトが大好きです。特にこのチーズタルトは“焼きたて”が美味しいということを、従業員なら誰でも知っていました。そこで、チーズタルトを主力にするという方針が決まったのです。

それでもなかなか売れ行きは伸びませんでした。そんな時、シンガポールで北海道物産展が開催され、チーズタルトを販売することになりました。通常はタルトを焼いた後で箱に入れ、それを冷蔵ショーケースに入れて売っていたのですが、物産展の途中で箱を使い切ってしまいました。

仕方なく「もう鉄板ごと出してしまおう」と発想を切り替え、冷蔵ショーケースを取っ払いました。オーブンから出した焼きたてを、鉄板ごと机に並べたのです。すると、売上が何倍も上がり、行列ができるほどになりました。“焼きたて”が見た目でも分かるので、お客様の購買意欲を刺激したのでしょう。

帰国後、新千歳空港店のショーケースも鉄板に変えました。すると案の定、大行列になりました。1日50個程度だったチーズタルトが、1,500個も売れる大ヒット商品になったのです。その後、札幌駅に『KINOTOYA BAKE』というチーズタルト専門店を立ち上げ、ここでも成功を収めました。

焼きたてチーズタルトや新ブランドで大きく成長。

私は社内ベンチャーとして株式会社COCという会社を立ち上げ、新ビジネスを始めました。クリックオンケーキという、デコレーションケーキの全国宅配サービスです。しかしこれはうまくいきませんでした。

北海道にいて、スピード感のある経営ができないことにもどかしさを感じた私は、「もう一度東京でチャレンジさせてほしい」と父に再び頭を下げて東京に進出し、株式会社BAKEを起業しました。2013年のことです。

クリックオンケーキの次に、ピクトケーキというサービスをスタートさせました。これは、自分のスマホに入っている写真を専用のアプリでアップロードすると、その顔を描いた写真ケーキが発注できる、というものです。

記念日ケーキなどでその人の顔を描いてほしいというニーズは結構あるのですが、パティシエとのやり取りに大変な手間がかかってしまいます。その手間を省ける点が評価され、写真ケーキのオーダーが大量に入るようになりました。

この成功で、BAKEは軌道に乗っていきました。2014年には、新宿に「焼きたてチーズタルト専門店 BAKE by kinotoya」をオープン。翌年には香港にも出店するなど、国内・海外で並行して店舗数を増やしていきました。

さらにシュークリーム専門店「クロッカンシュー ザクザク」、アップルパイ専門店「RINGO」、バターサンド専門店「PRESS BUTTER SAND」など新たなブランドの開発も実現しました。

2017年、国内約40店、海外でも数十店を数え、従業員数が1,000人を超えたあたりで、私は自身が100%保有していた株式の大半をファンドへ売却。経営も交代してもらいました。理由の一つは、BAKEを上場させるためです。ルール上、きのとやとBAKEの両方の株式を100%持っているわけにはいかなかったのです。

もう一つは、ブランドづくりに集中したかったからです。ブランドづくりは得意で、ヒットブランドを生み出してきた自負もありますが、その一方、1,000人を超える組織のマネジメントをする力は当時の自分にはないと感じていました。安心して任せられる人材に経営を代わってもらうのがベターと考えたのです。

放牧酪農、平飼い養鶏で本質的な美味しさを追求。

BAKEの経営から離れた私は、洋菓子の原材料を深掘りするため、アメリカに1年ほど滞在しました。アグリテックやフードテックに詳しい人々と対話を重ねていく中で、放牧の新たな可能性に出会いました。リジェネレイティブ・アグリカルチャー、すなわち「環境再生型農業」です。

帰国後、北海道に戻った私は、株式会社ユートピアアグリカルチャーに参画しました。再生型の酪農に興味を持ったのも確かですが、放牧酪農によって生まれる牛乳が圧倒的に美味しかったからです。

本気度の高い、美味しい洋菓子の三原則は、一つ目が「いい原材料を使うこと」、二つ目が「フレッシュであること」、三つ目が「手間をかけること」です。放牧酪農の牛乳は、ビタミンとカロチンの豊富さが色で分かるし、風味も豊かです。その違いはお菓子にするとさらに鮮明になります。

BAKE社の時も放牧酪農の業者と提携し、牛乳を送ってもらっていました。しかし突き詰めるつもりなら、自分たちで牧場を持ち、放牧酪農を理解するのが最善です。私たちは農業に投資することで本質的な美味しさを追求しようと決めたのです。

放牧酪農に伴い、養鶏も始めました。ケージの中に入れず、鶏舎を自由に歩き回る平飼いの養鶏です。餌にもこだわっており、養鶏たちの餌の総量20%以内の範囲で、「お菓子」をあげています。製造過程でできたクッキー屑やスポンジ屑、いちごのヘタなどを食べさせるのです。それを食べた平飼いの鶏は卵のコクが上がると分析結果にも出ています。

私たちはお菓子屋で、牛乳は放牧酪農により生産し、卵は平飼いの鶏のものを使っています。お菓子作り、放牧酪農、平飼いの養鶏の3つをワンストップでやっている会社は、どこにもありません。

これらは、ひとつひとつが繋がっています。品質の高い牛乳と卵を原材料として、本物のお菓子を作る。そこで出た屑は、餌として鶏に食べさせる。牧場と鶏舎から出る糞尿は、青草を育てる堆肥になる。青々とした牧草を牛が食べることで、牛乳の栄養価はさらに上がる。

そして、お菓子販売によって得た利益を牧場に投資する。私たちは北海道大学と共同で、牧場におけるCO2を土壌に貯める効果の研究も進めています。炭素吸収が上がり、良い土壌になる。すべてが好循環していくビジネスモデルの構築を目指しています。

新ブランド開発と、老舗ブランド再生の2本立て。

2020年には、きのとやの組織再編に着手。製販を分離し、販売部門は新たな株式会社きのとやに、製造部門はきのとや製菓と合併し、Kコンフェクト株式会社と改称しました。

さらに2022年、持株会社として北海道コンフェクトグループ株式会社を設立。きのとや、Kコンフェクト、COC、ユートピアアグリカルチャーが傘下企業になるほか、千秋庵製菓、北の食品といったブランドにも、北海道コンフェクトグループに加わってもらっています。

背景には、「お菓子の新たなブランドを作り、認知度を上げることの難易度が従来に比べ何倍にも上がった」という状況があります。今やコンビニもお菓子に力を入れるなど、競争が激化しています。そうなると、既に一定の認知度を持つブランドがある会社と資本提携し、一緒にリブランディングをしていく方が重要ではないかと感じたのです。

今後は、新ブランド開発と老舗との提携を中心としたリブランディングの2本立てでやっていこうと思います。北海道コンフェクトグループはそのための枠組みです。グループ内でいくつものブランドを抱えるというポートフォリオを形成すれば、それぞれのブランド価値を希薄化させることなく、市場やニーズに応じた柔軟な戦略が打てるようになるでしょう。

お菓子屋にとって、美味しさの次に重要なのがパッケージです。特に旅行客がお土産を買う場合、バッケージや写真、キャッチコピーなど、クリエイティブによって一目で魅力を伝えなければなりません。食べて買いたくなるだけでなく、見て買いたくなる、耳で聞いて買いたくなることも重要なのです。

このため、グループ内のお菓子のクリエイティブに関しては可能な限り内製化を進めています。ほとんどのお菓子屋はクリエイティブを外注する中、私たちのようにインハウスで完結できる会社は珍しいでしょう。

将来的には、世界に流通するブランド価値を育てていきたいと思います。イタリアやフランスには、食に関する世界的なブランドが存在し、国の経済を牽引する有力な産業になっています。北海道もできるはずです。

グループ名にあえて「北海道」を入れたのも、北海道なら世界に通用するお菓子ブランドが作れる、やるべきだと思うからです。そういったことに挑戦したいと共感してくれる人に、ぜひ仲間になってほしいです。

編集後記

コンサルタント
伊藤 千奈美

今回特に印象的だったのは、長沼社長の「いい原材料を使うこと」へのこだわりでした。このインタビュー後、私も実際にユートピアアグリカルチャーの盤渓農場へ行きましたが、広くて平らな地面の上で放し飼いにされている鶏たちはとても自由に見えました。

この鶏たちが製造過程でできた菓子屑などの廃棄物を食べることによってゴミが減り、卵のコクも上がる。それによって作られるお菓子がさらに美味しくなり、このお菓子を食べた人が幸せな気持ちになる。なんて素敵な循環なのだろうと感じました。

今後も北海道コンフェクトのお菓子作りに着目しながら、グループの根幹となる人材をご紹介できますよう、採用でお役に立ちたいと思います。

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