組織化することで100年続く歯科医院を目指す。
医療法人社団一心会
理事長 青木 一太
イタリアのミラノ生まれ。帰国後は東京で暮らし、北海道医療大学歯学部に進学。在学中に「家業ではない、永続性のある歯科医療」の実現を目指し、複数ドクターによる組織化を構想する。2001年、大学を卒業後、勤務医として歯科クリニックに就職。2009年、仲間と再結集し「新札幌いった歯科」を開業。2012年には、勤務医時代から通っていた北海道医療大学大学院を修了。2013年、医療法人一心会を設立し、理事長に就任。その後、歯科クリニック8拠点開設を始め、web予約システムの導入、訪問歯科の着手などを進める。他に北海道医療大学非常勤講師、北海道医療大学歯学部臨床准教授(歯科医師臨床研修科)、MID-G支部役員を務める。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
永続性のある歯科医院作りへ「仮説と検証を繰り返す文化作り」。
2009年の「新札幌いった歯科」開業を出発点とし、2013年には一心会を設立。以降、歯科医やスタッフ、診療台を着実に増やし、クリニック数を広げて訪問歯科などにも着手していきました。現在は歯科医36人をはじめ100人以上のスタッフを擁し、事業所数は8ヶ所を数える医療法人へと成長しています。
私が大学を卒業し、勤務医として歯科医療の道に入ったのは2001年。しかし、私は学生時代から、歯科医院の組織化を考えていました。かつては、子どもに親の家業を継いでもらうという形態が一般的だったかもしれません。しかし、今はそのまま承継することが難しく、歯科医師になっても親のクリニックを継がない、という話もよく聞くようになりました。
そうすると、クリニックに通っていた患者さんはどうなってしまうのでしょう。その歯科医師がリタイアした時、患者さんはまた新たな歯科医師や歯科医院を探さないといけない。これは患者さんにとって負担になると感じたのです。
歯科医院に限った話ではありませんが、医療においては長期予後が非常に大事です。一度治療した歯が長期にわたり機能することが大切であり、そのためのメンテナンスも長期にわたり必要不可欠となります。
私ひとりが開業するスタイルの歯科医院では、長期予後を担保するための永続的なメンテナンスはほぼ不可能であると考えました。ではどうすれば良いか。その解決策が、複数ドクターによる組織化された歯科医院と充実した教育制度の整備でした。
医療法人として組織化し、充実した教育制度が整備されることで100年先でも医療サービスの提供が可能となり、私や同世代の法人歯科医師がリタイアした後でも、患者さんは安心して治療やメンテナンスに通い続けることができます。そういった組織化された仕組みを作りと教育制度を整えようと、学生時代から考えていたのです。
そして、大学の在学中や就職した後も、同級生や先輩、後輩に自分の考えを伝え続けました。このような仮説が正しいのかどうか当時は分からなかったので、とにかく仮説と検証を繰り返すために行動しました。ここから一心会の文化がスタートしたのです。
ドクター集めのため、全国に飛ぶ。
2009年、老朽化した設備を引き継ぎ、スタッフを含め4人で居抜き開業をスタートさせます。最初の一年は365日、昼休みもなしで、夜の21時過ぎまで診療していました。そのかいあって想定以上に患者さんが来院してくれたため、すぐ同級生や後輩に声をかけました。
おかげで開業2ヶ月後には、非常勤の歯科医師がメインでしたが、8~10人のドクターが勤務する歯科医院となりました。ただし、その後はドクター集めに苦労しました。東京出身で北海道に知り合いが多いわけではないし、歯科医の組織化は異質な存在でもあったので、なかなか振り向いてもらえない。
ちょっとでも採用の可能性がありそうであれば全国どこへでも訪れ、会食しながらビジョンを伝えるというヘッドハンターのような採用を年間100日以上繰り返していました。100人と会っても、見学に来てくれるのは10人くらい、働こうと思ってくれるのは1〜2人くらいでした。
さまざまなご縁に恵まれ、2023年の時点で、訪問診療部門や経営本部のスタッフを含め、社員数は100人を超えており、日々社員が増えて続けています。私は、「100年企業を作るため、少なくとも100人の社員に法人を支えてもらいたい」と考えていたので、ようやく一つの壁は超えられた、といったところです。
各チームを取りまとめる院長や理事が、自覚を持ってメンバーを育てていることもあり、チームとして自走できているという手応えも感じます。私たちはもともと、トップダウンではなく、互いに話し合って物事を進めていくスタンスですので、メンバーも自律的に動けているのではないでしょうか。
歯科医療をより充実させるために。
歯科医師・医院の活動を支える団体MID-G(ミッドジー)にも参画しています。「臨床」「学術」「教育」を軸とした勉強会として発足した団体で、私は2013年から参加しており、現在も学びを続けています。
MID-Gは、医療機関の永続性にフォーカスしているという価値観に共感をしています。また最新の歯科医療に関する情報が収集できるため、とてもありがたい存在です。MID-Gに協賛する企業数は100社を超えており、これは日本でもトップクラスだと思います。
また、勤務医時代に2年、開業後に2年、博士課程も経験しました。これは、バイトドクターの大変さを体験するためです。大学院に通いながら勤務する非常勤のバイトドクターは、両立が大変と聞いています。しかし、その実感がなかったので、どれほど大変か、自身をその環境を置いてみようと考えたのです。
やってみると確かに大変でした。研究や論文の執筆があり診療に出られないこともありますし、研究内容について急に呼び出されたりもします。なかなか大学院生と臨床の両立は大変でした。それを知ったおかげで、バイトドクターに対する声のかけ方や配慮の仕方が、だいぶ変わりました。
彼らからも「院長は大学院生の事情を理解してもらえるので助かります」と言われ、大学院生のバイトドクターが増えていきました。
そして、今では大学院時代の恩師の安彦善裕教授に、法人の学術顧問をお願いしています。日々エビデンスベースの臨床を支え、また論文を解説していただく機会にも恵まれており、法人全体としても充実した学術環境となっています。
また、複数の北海道プロスポーツチームとチームドクター契約やスポンサー契約も行っています。目的は「地域のデンタルIQを向上させる」ためで、地域貢献の一環として取り組んでいます。
歯科医院でどれだけ歯のケアの大切さを訴えても、半径数百メートルの地域患者さんにしか伝わりません。しかし、幅広い人々へ影響を与えられるスポーツチームと連携することで、より多くの人々に歯科医療に対する啓蒙を行えるのではないか、と考えました。
チームドクターとして選手の歯科検診や治療を行い、サプライヤーとしてマウスガードの提供をしていると、選手も歯科検診の大切さを感じてくれ、いろんな形で発信してくれるようになります。
すると、ファンの方々も歯科医療に関心を持ち、地域のデンタルIQが高まるのではないか。そう期待しての活動ですので、宣伝広告というよりCSRの範疇と捉えています。
歯科医院経営におけるシステム化、IT化、DXへの挑戦。
今後、着手するのがコールセンターです。当法人は年間延べ人数9万人以上の患者さんが来院されます。ありがたいことですが、日々、医院の電話は鳴り続けています。
本来、歯科医院のスタッフには、目の前の患者さんに手を差し伸べてほしいのに、電話対応に追われ、それを十分にできない時間帯が多いことに気づきました。そこで、コールセンターを開設し、電話対応と対面受付を完全に切り離そうと考えました。
もちろん、診察券のアプリ化や、ネット予約の導入、自動精算機の導入など、システム化やIT化で解決できることは随時進めています。しかし、患者さんの年齢幅は広く、訪問歯科では寝たきりの患者さんにも対応しています。
スマホとシステムですべて解決、というわけにはいきません。コミュニケーション手段としての電話を残しておく必要があるのです。理想は電話が一切鳴らず、すべてのオペレーションを患者さんに集中できる歯科医院づくりです。
歯科医医院のバックオフィスにおいては、まだまだIT化やDXが可能だと思っています。一心会には優秀な若手メンバーが多く所属していますので、彼らの知恵を借りながら、今後も患者さんと社員のためにも挑戦し続けていきます。
理念に共感してくれる仲間を集め、育み、そしてバトンを託す。
今後の歯科医院経営において、本質的な医療の質の向上は当たり前で、その上で時代の変化に柔軟に対応する力やスピード感を持って解決するスキルが必要となります。そのためには前述した通り、優秀な若手メンバーの力が必要不可欠となってきます。今後はそのメンバーへの権限委譲や事業承継も経営課題の一つです。
当法人は、2009年に個人開業してから15年になりますが、20年、30年も経つと、組織も人も年を重ねてマンネリ化するものです。また、時代の変化のスピードも著しいので、その速度に負けない対応力や課題解決する力のある優秀な人材を採用し、育み、そしてバトンを託すことが必要だと考えています。
私もいつかは引退する時が来ます。それであれば早い段階で権限委譲や承継し、見守る立場にシフトすることで、結果的に永続性のある組織=「100年企業」につながるのではないかと考えています。
開業当初の2009年はリーマンショックで融資が厳しく、2011年の東日本大震災では物資の供給が止まり、2018年の胆振東部地震では医院が停電となり機能停止しました。そして、2019年からはコロナ感染症による影響を受けました。
外部環境に目を向けると、2年に1回くらいは大きな事態が発生しています。それでも我々が目指した理念をベースとした地域貢献を続けてこられたのも、過去から現在までの一心会メンバーに支えてもらえたおかげです。
この歩みをさらに進めるため、私たちの理念や目指す姿に共感していただける方に、もっと集まってほしいですね。痛みや課題を抱える患者さんを診る仕事ですので、外向性や社交性などコミュニケーション能力は必要だと感じています。また、ポジティブに考え行動できる力も大切だと思っています。
医療はもちろんですが、事業も思ったとおりの結果が出るわけではありません。どれだけ努力しても、外部要因に振り回されることもあります。そんな中でも方向性を見失わず進むためには、「今、自分が何をすべきか」というポジティブな判断力や行動力が必要です。そんな力のある方には、とてもやりがいの持てる職場だと思います。
企業としてもまだまだ成長フェーズにあるので、価値のある課題解決に向けて一緒にチャレンジしてくれる方は、ぜひお声掛けください。