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“新世代”のタクシー交通と観光事業で、「北海道の第一印象」を担う存在に。

互信ホールディングス株式会社
代表取締役社長 平島 誉久

更新日:2023年6月21日

1980年生まれ。神奈川大学を卒業後、電気機器関係の商社に就職。家電から設備機器まで様々な電気機器の法人向け販売を担当する。2005年、経営者の父から要請を受け、地元にUターン。互信ホールディングスに入社し、タクシー業界について一から学ぶ。2012年、急逝した父の跡を継ぎ、同社の代表取締役社長に就任。リーマンショックや東日本大震災でダメージを受けた業績を立て直すために奔走し、7期連続黒字を達成する。コロナ禍で再び苦境に陥ったものの、インバウンド需要の回復をにらみ、TAXI NEXTなど新たな手を打つ。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

大きなアゲンストの中、経営者としてスタート。

互信ホールディングスはグループを構成する11社で、タクシー事業をはじめとし、観光・旅行・自動車整備など幅広い事業を手がけています。車両保有台数は札幌市でトップクラスであり、2019年にはホテルを開業。さらに高品位のサービスを提供するTAXI NEXT事業をスタートさせるなど、常に業界をリードしてきました。

私が当社に入社したのは2005年。経営者だった父の誘いを受けてのものでした。2008年のリーマンショックでは大きなダメージを受け、それがようやく和らいできた2011年に東日本大震災が発生。日本全体に自粛ムードがまん延し、繁華街から人の影が消えてしまう大変な時代でした。

父の急逝を受け、私が経営を引き継いだのが2012年。まさに逆風のまっただ中です。その頃の当社は5期連続で赤字を出していました。それでも揺るがなかったのは、30年も社長をやって安定感も信用もあった父のおかげです。若造の私に、父と同等の信用などあるはずもなく、社長になったその日から役員とともに経営改善計画を立案し、銀行や監査法人とともに改善計画を進めました。

遊休不動産の売却や事業転換などで安定収入を増やす。ハイブリット車の導入で不採算になったガソリンスタンドを閉鎖、石油関連事業からの撤退。旧態依然とした賃金体系の改定や経費削減など、思いつくことは何でもやりました。

父のもとで働いていた役員の多くは、若く半ば強引な私の経営手法に不安を覚え、当社を去りました。中には「自分がいなくなることで人件費を圧縮できるだろう」と、捨て台詞で去っていく役員も。私は会社の未来を信じて一緒に戦ってくれる社員とともに一層経営改善に力を入れたのです。

聖域のない改革に取り組んだ結果、社長就任2期目から黒字に転換。売上は落ちたものの、経常利益を出せる筋肉質の会社に生まれ変わりました。以降は7期連続で黒字を計上。金融機関からの評価も向上したかと思います。経営を引き継いだ当初は苦しいことばかりでしたが、今振り返ってみると厳しいところからスタートできて、むしろ良かったのかもしれません。

コロナ禍の到来。患者搬送にも尽力。

2019年、インバウンド需要の盛り上がりを受け、新たな投資を始めました。観光客に旅の移動時間をより快適に過ごしてもらうため、大型のハイグレード車両を配備。外国人客対応のため、英語研修にも力を入れました。台湾・中国の観光客を受け入れられるよう、台湾から人材を招いたのもこの頃です。

2019年7月には「ホテルクラッセステイ札幌」を開業。これは、降雪で飛行機が飛ばず帰れなくなった外国人観光客が新千歳空港に缶詰になった、というニュースを見たのがきっかけです。せめて弊社を利用される方々にはそんな思いをさせたくないという気持ちで開業しました。タクシーを観光・旅行にもっと寄り添ったものへ進化させる取り組みを進めていた時に、新型コロナウイルスが襲来しました。

コロナ禍により、海外からの観光客どころか、街を出歩く人すらいなくなってしまいました。どうにか乗務スタッフの仕事を増やさねばと考えていた頃、市の救急班や病院関係者が困っているという話を聞きつけ、コロナ陽性患者を運ぶ救援事業に手を上げました。

感染者が多い時期の救急車はフル稼働状態で、患者を病院や隔離施設に搬送する手立てが足りません。そこでタクシー会社にやってくれないかという話が保健所から回ってきたのですが、当初は多くのタクシー会社が断っている状況でした。

一方で、コロナ陽性になった患者がそれを隠してタクシーに乗ろうとするケースも出てきたため、「それなら万全の対策を施した上で、『コロナ患者搬送中』と銘打ち一般のタクシーとは分けて特別チームを走らせるべきだ」と考え方を変えました。

そこで、乗室の後ろの空気が絶対に前に来ないよう車に特別な架装を施しました。さらに持病がなく、年齢的にもリスクの少ない乗務員を募って70名規模のチームを編成。コロナ患者搬送車両を走らせたのです。患者の降車後は毎回帰庫させて消毒を徹底。空気を入れ替え、オゾン発生消毒装置を常備するなど、手を尽くしました。

おかげで、コロナ患者搬送という意義の大きな事業を遂行することができたのです。最終的にコロナ患者搬送にあたってウイルスに感染した方はゼロでしたので、対応したスタッフは素晴らしい仕事をしてくれたと誇らしく思います。

苦境に負けず打った手が芽吹いてきた。

コロナ禍の最中、新たな事業にも取り組みました。その一つが、飲食物の配達事業「トドクシー(ToDoXi)」です。こうしたお届けサービスをやる事業者は他にもいますが、どこも配達手数料が高いのが難点です。当社は利益云々ではなく、地元の事業者が困っているのなら助け合おうという気持ちで始めました。地元の人に、無駄に高いものを買ってほしくありませんから。

そして、2020年8月に立ち上げたのが、TAXI NEXTです。従来のタクシー事業は、「本当の意味でプロフェッショナルが確立されていないのではないか」と感じたのがきっかけです。安全第一と言いながら、運転能力が低下している可能性のある高齢の乗務員を長時間タクシーに乗せたり。車内空間を清潔に保てずマナーの悪い乗務員をお客様の前に出して不快な思いをさせてしまったり。改善しなければならない課題はたくさんありました。

ですからTAXI NEXTでは、65歳定年を堅持。事故リスクを可能な限り低減します。勤務時間は朝8時~夜8時までの12時間で、週休3日制。十分な休みを取れるようにして、労働環境を整備しました。

研修にも力を入れています。タクシーは、10日間の研修で乗務を開始するのが通常ですが、TAXI NEXTでは新卒社員研修に3か月~半年かけます。マナー講習も受けますし、新卒社員には介護の初任者講習を義務付け、資格を取得してもらいます。TAXI NEXTの価値は徐々に浸透しており、VIPや富裕層が利用するホテルから「ぜひ契約させてほしい」という話をいただくことも増えました。

「観光」が成長の軸。チャレンジで業界をリードする。

当社にとって今後の成長の軸となるのは「観光」です。インバウンド需要が再び盛り上がってくると、移動手段としての車がクローズアップされることになります。コロナ禍以前から観光事業に向け様々なリソースを整備していたので、うまく活用していこうと考えています。

空港に着いた時、誰がお客様をお迎えするか、というのはとても重要です。最初に会った人が、現地の印象を決めることになるのですから。不快な車、不十分な接客で嫌な思いをされると、旅行客は二度と北海道を訪れようと思わないかもしれません。逆に、身なりもマナーもきちんとした乗務員から対応されると、北海道を好きになってくれるでしょう。私たちはそうした「北海道の第一印象」を担う責任があります。

タクシーのあり方も大きく変わっていくと思います。自動運転が入ってくるかもしれませんし、タクシーの相乗りサービス、すなわちシェアリングエコノミーが当たり前になるかもしれません。

一方、やはり一人で乗りたいと考える方がおられるのも当然です。多少、費用はかかっても、快適性を重視するお客様もおられるでしょう。こういった方々にも満足して頂けるサービスを提供していかなければなりません。お客様の多様なニーズに応えるため、当社は率先してチャレンジしていきます。

「北海道を好きになってほしい」という気持ちを大事に。

タクシーも観光も、奥の深い仕事です。例えばタクシーなら、「平日ならこのルートが最短だけど日曜はこっちの方がいい」といった知識が必要になる。観光も同様で、時期や場所、様々なイベントのタイミングに合わせた情報が欠かせません。

ナビやネットからでは拾えない知識や情報も吸収した上で、お客様に最高の接客をしようと努力する人が、当社では一番伸びると思います。最も大事なのは、「北海道を、札幌を好きになってほしい」という気持ちかもしれませんね。

ただし、人にはそれぞれペースがあります。今はできないことを無理にやれと言っても、すぐにできるようになるはずがありません。焦る必要はないので、前向きさは忘れず、自分の考え方を大事にしながら進めていければ十分ではないでしょうか。そのための受け皿、チャンスは、会社が用意していますから。一緒に、日本でトップのサービスを実現するタクシー・観光の会社をつくりましょう。

編集後記

チーフコンサルタント
福澤 謙二郎

今回のインタビューを通して、道内のタクシー業界トップクラス企業として、平島社長が業界に対する責任感や将来への危機意識を強くお持ちであることを感じました。

その平島社長がまさに渾身の思いで生み出したTAXI NEXT事業が、日本のタクシー業界の将来にとって一筋の光になっていくのではと感じました。同事業をはじめとする平島社長の新しい取り組みを、今後とも応援していきたいと思います。

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