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北海道の森から生まれる、優しく上質な家具を世界に送り出す。

株式会社カンディハウス
代表取締役社長 染谷 哲義

更新日:2022年11月02日

1964年12月8日生まれ、東京都出身。明治学院大法学部を卒業。1996年に旧インテリアセンター(現カンディハウス)に入社。2020年に専務取締役営業本部・企画本部統括、2021年3月代表取締役社長に就任。現在に至る。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

北海道産材を使い、和の美意識を生かす家具で世界から高評価。

カンディハウスの創業は、1968年に遡ります。1963年、創業者の長原實が28歳の時、修業のため渡欧しました。そして、故郷・北海道のナラ材が海外に輸出され、ヨーロッパで高級家具に加工されて世界に売り出されていることを知ったのです。その家具は日本にも輸入され、高い価格で販売されていました。その事実に長原は衝撃を受けました。

「自分たちの手で、質の良い北海道産の木材を使って家具を作り、世界に送り出す」そんな長原の決心が、カンディハウス設立のきっかけとなったのです。以来、カンディハウスは国内有数の家具産地である北海道・旭川を本拠に、家具づくりを続けています。

北海道の自然と日本文化の美意識を生かした家具は、優しく、飽きのこない、何十年も使い続けたくなるデザイン・質感で、世界中の幅広い世代に支持されています。人々に「自分に最適の快適」を発見してもらうため、新たなデザインへの挑戦と暮らしの提案を続けています。

旭川の工場で作り出される家具は、国内6支店、海外も含めた5つのグループ販売会社、また海外ディーラーを通じ、日本・世界の各地で販売されます。2020年からはオンラインショップもスタート。決して安価でない当社の家具は、店頭で見定めて決めていただくのが従来の購入パターンです。

しかし、すぐにショップへ行くのは敷居が高い。オンラインショップで十分に商品を検討した後で店舗に足を運べることも要因となり、ターゲットがアッパー層からミドル層にまで拡大しました。コロナ禍でショップへの来店が制限される中、購入決定率も2~3倍になっています。

デザインとブランドを重視する姿勢が、従来から根付いている。

「CondeHouse」は、1982年、ニューヨークのデザインチームの協力を仰いで構築したブランド名です。この際、「敢えて特別な意味を持たせない」ことにこだわり、造語である「Conde」を採用しました。世界のどこにもないからこそ、あらゆる国で通用する、そんな名前にしよう。そして世界の人々に愛されるプロダクトを作ろうという、強い覚悟を込めたのです。

「CondeHouse」というブランド名を全面に押し出したことで、顧客への認知度は上がっていきました。そして、世界最大の建築事務所であるゲンスラー・アンド・アソシエイツや、J・ポール・ゲティ、バンク・オブ・アメリカ、アップルコンピュータといった顧客との取引を、日本から来た小さな家具メーカーが実現させたのです。この成功体験からも、カンディハウスのデザインとブランドを重視した企業姿勢が醸成されていきます 。

2018年に設立50周年を迎えるにあたり、私は現会長の藤田哲也とともに、ブランディングを進めてきました。そしてブランドストーリーを、3つに再編したのです。

その一つ目は、「自然に感謝し、森のそばで家具をつくる」。北海道の森は、私たちの原点です。その北海道の木をできる限り使う。森を育むための間伐材や端材、木くずまで、無駄なく使い切り、生活に役立つ家具を生み出しています。 旭川では、産地全体で地元の木を使おうという「ここの木の家具・北海道プロジェクト」を推進しています。これは先々代の社長・渡辺直行が旭川家具工業協同組合の代表理事であった2014年からスタートさせたものです。

当社では、高級材として輸入されているウォールナットに引けを取らない上品な色合いを、北海道のタモ・ナラ材で実現するためのカラー開発を行うなど、さまざまな工夫で道産材を活用するようにしています。おかげで、今や道産材の使用比率は50%以上。木材輸送のためのエネルギーとCO2削減にもつながりました。これはブランドを構築していく上でも、重要なポイントです。

製品に込めたデザインマインドで、美しいライフスタイルを提案。

二つ目は、「つくり手の努力と挑戦が、すぐれたデザインを形にする」。当社の工場には、木の風合いを最適に引き出す職人がいます。その横では、最先端の設備が木材を加工しています。熟練の手作業と最新のテクノロジーの融合が、上質の家具を作る原動力となっているのです。

技術へのプライドがあるからこそ、世界中のデザイナーとの協業があり、新しいデザインが生まれるのです。旭川では、3年に一度、世界最大級の木製家具デザインコンペ「IFDA(国際家具デザインコンペティション旭川)」が開催されますが、当社は、同コンペに積極的に関わることで、新たなデザインを生み出すきっかけとなっています。

三つ目は、「ものづくりで、『和の美意識』を発信する」。カンディハウスのものづくりには、自然を敬い、人を思う「和の精神性」が息づいています。和の心から生まれる優しさや繊細さは、心地よい暮らしを求めるすべての人に受け入れられるものです。

例えば、当社の製品に「ハカマ ダイニングテーブル」があります。この製品のデザイナーはドイツ人ですが、日本文化ならではの美的感覚と西洋のデザイン感が融合して誕生しました。力強く凛とした「ハカマ」は、「和の美意識」を具現化した作品の一つに挙げられるでしょう。

製品デザインのみならず、木目の使い方、塗装色や椅子張地、インテリアコーディネートなどから「和の美意識」を感じられる空間提案を意識しています。

三つのブランドストーリー再編に加え、「ともにつくるくらし。カンディハウス。」というタグラインを設けました。私たちは、ライフスタイルそのものを提案する会社でありたい。お客さま、取引先や社員、そして北海道の自然とともに、心地よい豊かな暮らしをつくっていきたい。そんな思いを込めました。

ロゴマーク変更。ショップもリフレッシュ。ブランドを浸透させる。

さらに2021年、リブランディングの一環として、38年ぶりにロゴマークを刷新しました。新しいマークは、北海道のミズナラの木をモチーフにしたもの。その横に、英字をロゴとして据えました。イメージカラーも赤から緑に変更。北海道の自然を尊び、地球との調和を重視する私たちの姿勢をよく表していると感じます。

経営方針で「デザイン経営」についても明文化しました。当社は、製品の開発から製造、販売、アフターサービスに至るまで一気通貫で行っていますが、すべてのプロセスにデザイン経営の手法を活かしています。その基軸となるのが、北海道の自然であり、地球との調和です。ここを軸に、あらゆるシーンでカンディハウスにしかできないブランド価値を創出します。

ブランドストーリーを再編し、タグラインができ、ロゴも変わりました。それらに込められた当社の意志をお客さまに明確に伝えるため、ショップでは、カンディハウス独自のスタイル提案「3つのスタイル」を設定し展示を行っています。

「North Noble」―北国の凛とした空気を思い起こさせる、清潔で気品ある空間
「Simple & Natural」―さらりとした木の床を素足で歩くような、自分らしくいられる場所
「Advanced Classic」―伝統に裏打ちされた、説得力ある美しさ

これら「三つのスタイル」の空間提案による構成で、全国のお客さまに統一したブランドイメージを伝えられるようになっています。

創造にゴールはない。チャレンジ精神で壁を突破してほしい。

今は現状維持で安閑としていられる時代ではありません。変化の激しい中、挑戦し続ける人には、とても刺激を受けますね。創業者の長原 は「創造無限」という言葉を残しています。「創造には制約も終わりもなく、無限に拡大するものだ」と。

これはカンディハウスの根幹だと感じています。こういった考え方に共鳴してくれる人が仲間になれば、カンディハウスはさらにダイナミックな活動のできる会社になるでしょう。

将来をにらんだとき、グローバルな視点も大事になっています。今後も海外展開をさらに強めるのは必然な時代、海外人材も積極的に採用していきます。

また、ITリテラシーも重要です。オンラインショップの例を引くまでもなく、業務改革や生産性改善にもDXを推進します。新しいテクノロジーへのチャレンジに興味を持ち、ITを柔軟に活用できる能力を求めています。

ブランディングにゴールはありません。「伝統」は守りつつ、今後も再編や再生を重ね、「変革」による企業価値を高めていく必要があります。そのために一緒に走ってくれる人材と出会いたいですね。

編集後記

コンサルタント
伊藤 千奈美

同社が1968年創業以来大切にしてきた「自然と調和したものづくり」から、「自然に感謝し、森のそばで家具をつくる」「つくり手の努力と挑戦が、すぐれたデザインを形にする」「ものづくりで、『和の美意識』を発信する」これらの伝承および実践は、ショップを訪問し、ファクトリーを見学するたびに、体感することです。

一本の木を端材や木屑まで使い切ること、ロングライフプロダクトの開発、5割超えの道産材使用比率など、持続可能性につながるライフスタイルを実現する姿勢に感動します。

同社は、道内企業としてはいち早くアメリカやドイツに現地法人を設立し、約20年にわたり世界のインテリア見本市に出展しています。

ユネスコのデザイン創造都市の認定を受ける旭川市の地域牽引企業として活動し、世界へ発信する同社を、ぜひ応援し続けたいと思います。

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