大学のラボのような自由闊達さから、社会課題を解決するAIが生まれる。
株式会社調和技研
代表取締役 中村 拓哉
1961年生まれ。86年慶應義塾大学を卒業後、株式会社 北海道拓殖銀行に入行。その後、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社に転職。人材採用のため大学の研究室をいくつか回る中で、北海道大学の調和系工学研究室が主体となった大学発ベンチャーの株式会社 調和技研を知る。その取り組みに共鳴し、2011年、調和技研に入社して取締役に就任。2013年より代表取締役。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
北海道大学の調和系工学研究室から誕生したAIベンチャー。
私は大学卒業後、銀行へ就職。その後、日立グループのソフトウエア会社に転職し、財務や人材採用などコーポレート部門を担当していました。そのため、東京以北の大学のいろいろな情報系研究室を回っていましたが、その過程で知り合ったのが北海道大学の調和系工学研究室にいた意気盛んな研究者たちです。
彼らは、学術研究から生まれた最先端のAIを社会実装して世の課題を解決したいと、2009年に調和技研を立ち上げていました。私は銀行にいたので、財務や経営にも心得があります。この才能あふれる研究者たちとなら面白いことができそうだと感じ、私も調和技研に合流しました。2011年のことです。
大きな苦労もありました。しかし、北大調和系工学研究室はAI研究をリードする存在で、有為の学生が数多く在籍しています。そこから生まれる各種AIエンジンの技術は確かで、顧客も少しずつ増え、行政や地元自治体が補助金を付けるといった支援もしてくれました。
北大発ベンチャーに認定された2017年前後から世界的にAIブームが起こり始め、当社にも超大手メーカーから頻繁に連絡が入るようになりました。恐らく、以前から「北海道に妙なAIベンチャーがある」くらいには注目してくれていたのだと思います。
そして声をかけてみると、「ベンチャーとして異例なくらい開発実績があるし、メンバーにしっかりとしたドクターがいる。コストも安い。試しに依頼してみるか」そんな感じだったのでしょう。
この頃から急激に依頼件数が拡大しました。それに合わせて、当社もガバナンスを見直し、メンバーを拡充して対応できる体制を整えたのです。
汎用系AIエンジンを組み合わせて、オリジナルのAIを構築。
私たちの目的は、AI開発そのものではありません。「社会の高難度課題の解決に、AIで貢献する」ことです。要するに、AIで人間を楽にしよう、しんどい部分はAIに任せ、人間はクリエイティブに生きていける社会をつくろうというのが、目指す未来なのです。
そんな理念をベースに、数々の汎用AIエンジンを開発しています。そしてメーカーなどの求めに応じ、エンジンを組み合わせてカスタマイズし、課題解決に効果的な専用AIを構築するのです。
汎用AIエンジンは、言語系・画像系・数値系の群類があります。言語系とは、ドキュメントの内容から適切なカテゴリに分類するエンジンや、内容のポイントを捉えて要約するエンジンなどがあります。
これらを組み合わせることで、例えば企業のコールセンターでカスタマーの問合せや苦情に対し、ロボットが自動で適切に対応する、といったことができるようになります。また、オンライン会議上で、相手の発言をとらえて発言者の感情まで示すことも可能になります。
画像系とは、画像から対象とするモノを分類したり、それが何であるのかを認識するエンジンです。数値系とは、過去データを基に来客数、売上高を正確に予測するエンジン、ユーザの過去の行動を基に嗜好を分析して次の行動を促すエンジンです。効率的なシフト案を提示したり、異常値を検出したりするエンジンなどもあります。
これらを活用することで、スーパーのレジをを無人化したり、製品の不良品を排除できるようになります。複数の群類のエンジンを連携させると、例えば「この商品をどんなタイミングで市場に出せば、利益が最大化するか」といったことも判断できるようになります。
こういったシステムを1社で提供できる。どのような課題に対しても、エンジンの組み合わせで柔軟に対応し、最適解を生み出せる。それが当社の強みです。
大学のラボのようなコミュニティーが、自由闊達さを醸成する。
当社の強みを生み出す源泉となっているのが、大学のラボのようなカルチャーです。当社は、現在も北海道大学調和系工学研究室(川村ゼミ)、北海道大学自律系工学研究室(山本ゼミ)、公立はこだて未来大学(鈴木ゼミ)、札幌市立大学地域連携研究センターAIラボ、国立東京工業高等専門学校(山下ゼミ)、公立千歳科学技術大学(小松川ゼミ)などと共同研究を行っています。好奇心旺盛な学究者とともに社会課題にチャレンジする環境が、新たなサービスの創出につながっているのです。
AIエンジニアというと、多くの人は、職人的に一人ひとりの作業で開発する姿をイメージするのかもしれませんが、実はそうではありません。彼らはコミュニティーをとても大事にします。当社では、多くの研究者と活発な議論を交わしながら、業務に取り組んでいます。
また、他のベンチャーと私たちが違うのは、地域振興・活性化を重視している点です。私たちは、社会実装によって、地域に山ほどある課題にできる限り応えようと、小さな声にも耳を傾けてきました。その姿を見た行政や自治体の人々が、いろいろな形で支援してくれた気がします。
オーダーメイドの受託開発と並行し、オリジナル製品の提供も。
顧客の要望に応える受託開発と並行して、今後は、どの業界でもそのまま使用できる製品の開発にも力を入れたいと考えています。
業界が異なっても、共通項が多いケースはたくさんあります。ネジの中から正常・不良を判別する仕組みは、対象がジャガイモに変わっても応用は可能です。同じ仕組みが使えるのなら、オーダーメイドで組み立てるより、顧客は素早く利用できますし、コストも安くすみます。
新製品の開発には投資が必要です。幸い、当社を昔から知る企業の方が、「そういうことなら」と出資してくれました。当社が一つの技術で一攫千金を狙うタイプのベンチャーではなく、地元で堅実に成長を続けてきたことを知っているからこそ、信頼してくれるのだと思います。
ベンチャーキャピタルに頼ることなく、仲間の信頼だけで次の一手を打つための資金が集められるのも、当社の良さかもしれません。これと共に、IPOも目指しています。
AI人材育成とアジア開拓のため、バングラデシュに進出。
産学官連携による実践的AI人材育成・実証プログラム「札幌AI道場」も、札幌市と連携して進めています。道場に集まった人材には、実際の地域課題を提供します。例えば、地元のソウルフードである餃子の検品作業や、昆布についた石ころ除去を自動化できないかなど、高齢化の進む日本においては無視できないものばかりです。
これらの解決策を考える上で、AI技術の習得・向上を目指してもらうのです。もちろん当社もそこに入り、技術開発を支援します。道場の開設式には、若い人からベテランまで、100人近い方が集まってくれました。当社も、事業の連携先として、そして将来のAI人材を育成する場として、精一杯協力していきたいですね。
2019年には、バングラデシュに子会社を設立。ダッカ大学とも協定を結び、AI人材の育成と、地域発展に向けたAI技術の開発を共同で行う体制を整えました。
AI人材は、今も世界的に不足しています。そんななか、1億7千万人といわれる人口を抱え、平均年齢27歳と伸び盛りのバングラデシュは、大きなポテンシャルを持っています。人材育成はもちろん、ここを足がかりにアジア市場の開拓も見込めます。
実際にAIエンジンの開発にあたってもらうと、十分なクオリティーのシステムを作ってくれることが確認できました。この力を成長させるためには、バングラデシュに出向き、彼らを指導する人材を確保しなければなりません。
常識にとらわれず、好きなことにとことん取り組んでほしい。
当社では、画像系や数値系のAIエンジニアをはじめ、さまざまな人材を募集しています。AIビジネスコンサルタントもその一つ。顧客から舞い込む依頼に対応するだけではなく、お客さまの課題を察知して、ソリューションを提示できる人材も必要です。
ある意味でやんちゃというか、常識にとらわれない人がいいな、と感じます。言い換えると、できない理由ではなく、どうやったらできるのかを考える人ですね。
当社は「どうせなら、好きなコトをとことん」ということを大切にしています。好きなことに、自由に取り組む。それが、大学のラボのような雰囲気を色濃く持つ当社の最大の長所だと思うのです。好きなコトを楽しくとことんやる方が、パフォーマンスは最大化します。
もちろん、IPOを目指す会社らしく、会社運営・ガバナンスは整備しながらも、好きなことを自由にやる。この両者をうまくハンドリングするのが、経営者である私の責任だと認識しています。
私たちが目指すのは、AIとの調和により、人々がクリエイティビティを発揮させ、自由に生きられる社会です。一緒に、自由でワクワクする社会の創造に貢献していきましょう。