スポーツの可能性を最大限に広げ、地域と企業の課題を解決する。
株式会社レバンガ北海道
代表取締役CEO 横田 陽
北海道釧路市出身。札幌大学でバスケットボール選手として活躍。大学卒業後、当時の月寒グリーンドームの運営会社へ入社、その後、2007年にレラカムイ北海道のチーム設立に尽力。一度、チーム運営から離れるも、2014年4月に改めてレバンガ北海道に参画。現在は代表取締役CEOとして会社の経営を担う。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
課題を聞き出し、解決策を提示する「町医者」のような営業。
当社は、プロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」の運営会社です。最近は6期連続で黒字を達成し、前期はクラブ創立初の年間売上10億円を達成するなど、業績は順調に推移しています。
コロナ禍でリーグ中断といった逆境がありながらも増収できたのは、中長期を見据えた地道な営業活動を継続できていたおかげです。また、パートナー企業のチームへの想いがあったからこそ、コロナ禍でもスポンサーを減らさず、逆に増やすことができたと思っています。
プロスポーツの営業というと、いくつかのパートナープランがあってそこからお選びいただくようなイメージが一般的かもしれませんが、当社の営業活動は多少異なります。
お客さまである企業の経営課題や業界の問題などの現状把握をし、それを解決するために当社ができる最適なソリューションを提案する。町のお医者さんが行う問診医療に近い形の営業を心がけております。
リーグ優勝がゴールではない。目的は「人と社会に感動を届ける」こと。
スポーツの持つ可能性はとても幅広く、エンターテインメントだけでなく、教育、健康、福祉、医療、観光、経済などあらゆる業種・業界に貢献できるコンテンツであると考えています。
スポーツという価値をさまざまなニーズにアレンジすることで、自社の利益のためだけでなく、地域や社会課題などに活用してもらう。この活動こそがプロスポーツチームの存在意義だと思っています。そして、プロスポーツチームは、このような活動を通すことによって、パプリックな存在として扱っていただけるのだと思っています。
今、多くの企業がSDGsやESGといった社会活動を意識していますが、どのように着手したらいいかお困りの企業も少なくありません。そういった企業の皆さまに、スポーツ振興や体力づくりのプログラム開発、シニア向け健康講座、サスティナブルな環境活動といった、当社がこれまで継続して進めてきた活動にご一緒いただくことで、さらに活動の幅が拡がります。
多くの方々に喜んでいただき、パートナー企業は社会に貢献できる。そういった、自分たちも含めたAll-Winのストーリーを作っていくことを重要視する、それもまたプロスポーツチームの存在意義であると考えています。
ビジネスとして、本業のスポーツでしっかり稼ぐという本分はありますが、「北海道のため」「地域社会のため」という意識を大切にすることで、一般企業と地域社会のハブになれると考えています。
「リーグで優勝する」「日本代表選手に選出される」といったチームのミッションや目標は、とても大事です。しかし、クラブとしての「ゴール」は、そういったミッションを遂行することで、「北海道から『⼈』に『社会』に感動を届け、世の中を笑顔にする」という理念を実現させること。所属する選手たちにも、そう伝えています。
プロアスリートにとって、コート上のパフォーマンスは、最低限であり、仕事の半分に過ぎません。残りの半分はオフコートで、地域のため、子どもたちのために活動することです。
現在、当社のスポンサーは約400社。ほとんどが北海道内の中小企業です。レバンガ北海道は私たちの所有物ではなく、応援してくださる皆さまの球団だということを忘れてはいけません。
今季から、アジア枠の制度を活用し、現役のフィリピン代表選手と契約を締結しました。もちろん、戦力強化のためでもあるのですが、リーグのアジア枠の趣旨はそれだけではなく、マーケティング目線での導入でもあります。
フィリピンは人口1億人を抱える発展途上の国で、今後さらなる成長が見込まれます。そんな中、フィリピン代表選手が札幌で活躍したり、現地の観光PRなどに登場すれば、フィリピンからの観光客が増えるかもしれないし、国際交流や経済交流の一助になれるかもしれない。そういった活動こそ、地元北海道への貢献になるのかもしれない。
観光や国際交流の起点にもなり得る実績がつくれれば、北海道内各地の皆さまに、「北海道にはレバンガが必要だ」と思ってもらえることに繋がっていくと信じています。
さまざまな課題解決に関わりたい。
2022年からは、コロナ禍で進めていた各自治体との取り組みがスタートしています。札幌市をはじめとする近郊自治体との連携協定も随時進行中です。各自治体と連携強化ができることで、活動の幅が格段に広くなっています。
スポーツ関連の部局だけでなく、保健福祉局やこども未来局、まちづくり局、消防局など、さまざまな部門との繋がりができ、サイバーセキュリティのアンバサダーとして任命されるなど、徐々に活動実績も出てきています。
教育面でもできることがあります。当社は、2018年からeスポーツ業界にも参入しています。当時、ゲーム業界のことは無知でしたが、選手の価値を高め、ブランディングやマーケティング、PRやグッズ販売など、内的アセットを流用できるという判断もあり、決断しました。
やってみると、リアルスポーツではボールを持つが、eスポーツではコントローラーを持つ、その程度の違いしかないことがわかりました。「eスポーツを通じてレバンガを知った」というゲームユーザーもいますし、逆のパターンもあります。
eスポーツとリアル、両方を運営しているという長所を生かし、今後、ゲームを活用した健康寿命やコミュニケーションツール、脳トレーニングなどにも、活動の幅を広げていきたいですね。
eスポーツは、幅広い業界とご一緒できる領域です。「競って賞金を稼ぐ」という偏ったイメージを払拭し、eスポーツにはさまざまな活用方法や可能性があることを、道内各地で伝えていきたいと思います。
アリーナは、一体経営によって価値が高まる
2026年に始まる新B1リーグ(ライセンス基準を満たしたクラブによるトップカテゴリー)の参入条件の一つとして、夢のアリーナ構想があります。カーディング(試合編成)の自由度のほか、スイートルームやVIPラウンジなど、海外のアリーナのようなエンタメ性の高いソフト要件がいくつもあり、新設もしくは改修のいずれかで実現していかなければなりません。
アリーナを建設する場合、それが街全体を活性化し、将来にわたって街のシンボリックな存在であり続けるべきです。また、収益性を高めていくことはもちろん、「地域にコネクトし、還元する」という発想も必要だと考えます。
収益性を考える上で重要なのは、コンテンツです。アリーナを作っただけでは、まだ鉄の塊に過ぎません。コンテンツを生み出すとともに、既存のコンテンツのバリューを高めていくことこそが、アリーナの発展につながります。コンテンツに対するブランディングや成長速度を高めることで、セールス単価やチケット単価が上がり、その結果、付帯する設備の充実やサービスの向上につながります。
レバンガ北海道が、アリーナスポーツにおけるコンテンツとしてプレゼンスを高めていくことが、アリーナ運営にとっても有効であると思います。その価値を高めるためにも、ハードとソフトの一体経営の実現に向けてチャレンジしていきたいと思いますし、そうすることが必然であると考えています。
そういったアリーナが北海道にできることで、これまで関東で止まっていた世界的なショーやライブエンタテインメントを招致できるようになったり、ナイトエコノミーにもさまざまなコンテンツを提供できるかもしれません。
北海道には、プロアマ含めて数多くの競技が存在しており、1年通じてさまざまなスポーツを観戦できる文化が醸成されています。先般、北海道コンサドーレ札幌とも協業提携をしました。今後、スポーツを通したまちづくりや、子どもの体力向上など、さまざまなシーンで協業しながら、北海道の皆さんのお役に立てればと思っております。
10億円の大台をクリアした先に掲げるのは、3年後の20億円です。その準備はしてきました。スポーツを軸とした、さまざまな分野との連携。地域の人々や企業の抱える課題を解決するソリューション提案。また、eスポーツとの連携や、フード事業(小樽名物の若鶏半身揚け販売)といった、事業の多角化も進めています。「多くの人に感動と笑顔を届ける」という理念を見失わず、実績を積み重ねていけば、不可能な数字ではありません。
前回と同じことをやる。それは思考停止でしかない。
エンタメ業界は、今日は面白かったとしても明日には飽きられてしまう、という宿命を持った業界です。SNSツールやアプリなど時代の変化が著しい中で、スポーツ興行における「昨年のイベントでヒットしたから今年も同じことを・・・」というのは、当社にとっては思考停止でしかありません。
バスケットボールの試合は約2時間、前後の時間を換算すると、ちょうど映画と同じくらいの拘束時間です。ただ、映画は筋書きがあって結末が決まっていますが、私たちのビジネスは「勝利」というハッピーエンドだけではなく、期待に応えられない結果の時もあります。
つまり、試合とは「自分達ではコントロールできない商品」なのです。だからこそ、一つの試合を実施するために、映像や照明、音響、チア、ギブアウェイや参加型イベントなど、何日も前から綿密に打ち合わせ、空間を作り上げる準備をします。もし勝利をお届けできなくても、「試合」という商品以外のコンテンツを高めていくことが、勝っても負けても「また来たい」と思ってもらえることにつながっていくと思うからです。
「面白かった!」「また来るわ」などと声をかけていただけたり、SNSでポジティブなコメントを拝見すると、苦労が報われたように感じます。さらに喜んでいただくには何が必要か、というマインドを持って取り組める人には、やりがいのある仕事でしょう。
ですから、チャレンジは歓迎します。時には、チャレンジし過ぎて炎上することもありますが、初めてやることには批判も大きくなります。楽なのは現状維持であり、「何もしない」ということなのでしょうが、それは思考停止であり衰退につながります。常にチャレンジングで尖っていれば、それがブランドになります。
「普通こうですよね」「常識的には・・・」といった考えに囚われていると、真の解決策は見えてきません。「感情を揺さぶるようなものかどうか」を軸に判断していくことを大切にしています。
みんなに感動を届けて笑顔になってもらうことは簡単ではありませんが、スポーツはあらゆる感情を揺さぶります。その感情をプラスに働かせる形を創っていくことが大事で、そういう概念に共鳴できる人は、意欲を持って働くことができると思います。