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サッカーチーム運営は手段の一つ。重要なのは「北海道を元気にする」こと。

株式会社コンサドーレ
代表取締役GM 三上 大勝

更新日:2022年8月17日

北海道室蘭市出身。室蘭大谷高(現北海道大谷室蘭高)、札幌大学でサッカー選手として活躍後、NEC山形サッカー部(現J2のモンテディオ山形)に所属。1995年に選手を引退し、モンテディオ山形法人設立準備室で同クラブ設立に尽力。 1999年7月に北海道フットボールクラブ(現コンサドーレ)の事業部へ参加。2014年よりトップチームのゼネラルマネージャーを務め、2022年1月11日付けで株式会社コンサドーレの代表取締役GMに就任。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。

トップレベルにこだわるのは、北海道の子どものため

「コンサドーレ」という社名を聞くと、たいていの人が「J1所属のプロサッカーチーム・北海道コンサドーレ札幌を運営する会社」と思われるでしょう。それは間違いではないですが、私がいつも社員やスタッフ、選手と共有するのは、「私たちの目的は、北海道を、札幌市を、そこに関わる人々を豊かで元気にすることだ」というビジョンです。クラブチームはその象徴であり、手段の一つに過ぎません。

事業において是非を判断する基準は、常に「地域のため、北海道のためになるか」です。チームがJ1残留にこだわるのも、「国内最高峰のサッカーを、北海道の子どもたちに見せたい」から。子どもの頃に味わった高い次元の興奮や感動は、その後の成長に大きな影響を与えます。当社はサッカー以外にも、カーリングやバドミントンチームを運営し、いずれも国内トップレベルに成長しています。これにもサッカーと同様、高いレベルのパフォーマンスに触れ、イマジネーション豊かな子どもに育ってもらいたいという思いがあります。

通訳もトレーナーも、チームの外にどんどん出て行っていい

プロチームを運営する当社には、専属のトレーナーや栄養士、通訳がいます。彼らの存在が地域のためになることもあるのです。

当社の通訳は、各領事館でボランティア登録をしています。韓国語、英語、ポルトガル語、タイ語の4ヶ国語が話せるので、北海道へ旅行に来た外国の方がトラブルで困っている時、駆けつけてお手伝いをすることもできます。

あるいは、トレーナーが地域の高齢者のために、健康維持に関するイベントを開催するのもいいでしょう。栄養士が地域の小学校に出向いて、食育指導を行ってもいい。個々の持っているスキルをチーム外に出すことで、地域を元気にできるわけです。

当社の事業が「プロサッカーチームを運営する」にとどまっていたら、そういった発想は出てきません。しかし、「北海道を、札幌を元気にする」が目標なら、できることはたくさんあります。

しかも、トップが指示するのではなく、「自分のスキルを使えばこんなことが地域に還元できるんじゃないか」といった声がメンバーの方から上がってくるようになるのです。

サッカーチームとしての戦い方を考える上でも、「北海道のため、札幌のため」という思いは根っこになっています。私は、かつてサポーターと会話する機会があるたびに「何対何の試合が面白いか」と尋ねていました。世界的には1対0のサッカーが一番面白いと言われます。しかし、北海道のサポーターの8割は「2対1、3対1の試合が見たい」という答えでした。

道民がアグレッシブなスコアを求めるのであれば、チームはそれを目指さなければならない。北海道コンサドーレ札幌は、誰が監督になろうと、アグレッシブであり続ける。それがチームのDNAなのだと、監督も選手にも伝えています。昨年そのスコアが実現したのは、34試合中4試合でした。せめて半分くらいはそういう試合を作れるのが理想です。

北海道各地の地域課題を解決し、まちづくりに貢献

これから力を入れていくのが「まちづくり事業」です。当社のスポーツチームは、企業・自治体・団体などたくさんのパートナーの方々に支えられています。これらのパートナーの方々と力を合わせ、地域課題の解決にあたるのです。

スポーツ用品メーカーのミズノさんと手を結んだ「PROJECT 179」という取り組みが、すでに始まっています。これは、ミズノさんの製品を地域で購入してもらうと、その一部が地域の子育て支援などの費用に充てられるというもの。ミズノさんは全国で展開されていますが、北海道179市町村については私たちにさせてほしいと協力を申し出たものです。

また、現在、北海道および道内10市町村と包括連携協定を交わし、地域課題をスポーツで解決する試みもスタートしました。年内にはこの数を倍にしたいと考えています。各地域の課題はさまざまで、解決策も一様ではありませんが、例えば自治体の体育館などスポーツ施設の指定管理を当社が担当する、といった選択もあるでしょう。

それにより、地域の子どもの体力増進に貢献できるかもしれません。もちろん事業継続のためには、マネタイズの方法も無視できません。ですが、利益重視ではなく、あくまで「北海道のため、札幌のため」を基準に動いていきたいと思います。

コンサドーレがハブとなって、異業種の企業を結びつける

当社が、パートナー同士をつなぐ「ハブ」となってもいいと思います。

あくまで例ですが、チームのスポンサーにホテルがあり、従業員用制服を新調するのに1,000万円かかるとします。一方、オーダースーツを扱う企業がチームのスポンサーになってくれていて、その企業が700万円でオーダー制服を用意しますよとなったら、当社が両スポンサーを結びつければいいのです。ホテルはコスト削減になり、スーツ会社は新規顧客が増える。当社がハブとなることで、地域企業の課題解決につながるわけです。

異なる企業同士をつなぐことで、互いの経営課題を解決するというビジネスの芽は、スポンサー、サポーターの数が増えれば増えるほど広がります。その可能性は無限と言っていいでしょう。

現在は、売上50億円を当面の目標においています。プロスポーツチームを運営し、それをコア、あるいはハブとして地域のさまざまな課題解決にあたり、北海道を、札幌を元気にしようと思うなら、それだけの資金規模が必要だと思うのです。

目指すのは、北海道や札幌にとって、当社がかけがえのない、存在意義のある会社、チームになることです。

「北海道のために」を第一に考える仲間を迎えたい

北海道、札幌を豊かで元気にするには、多くの仲間が必要です。私は、チームのスカウトだった頃から今も、選手・スタッフ・社員に必ず「オンザピッチでパフォーマンスを発揮するのは当然。しかし、オフザピッチ、すなわち北海道について、地域についても関心を持ってほしい」と伝えます。北海道のために、という視点が持てない者を、チームに迎えるわけにはいきません。

選手にも社員にも、面接の際にはいつも「自分のありたい姿って何?」と尋ねます。何ができるかではなく、何がやりたいか。北海道、札幌のために、コンサドーレに入って何をしたいのか。そこがファーストステップです。例えば、営業をやってきた人なら「コンサドーレとコラボすることで、北海道をこんな風に元気にできるんだ、と地域の企業に話して回りたい」とか。ありたい姿を明確にしてくれれば、こちらも入社後がイメージしやすくなります。

もちろん、私にも「ありたい姿」があります。GMです。チーム編成に権限を持ち、クラブ経営にも視野を置きながらチームのことを考えるGMが、私の「ありたい姿」です。それを実現するために、今はまだ勉強中だと思っています。私の肩書が「代表取締役GM」であり「社長」でないのは、そういった理由もあります。

メンバー、社員から提案が上がってくるようになった

「北海道のため」を実現するには、選手、スタッフ、社員が自発的に動き出すボトムアップ型の組織であるのが理想です。そのためにも、選手や社員とは常に接するようにしています。

午前中はクラブハウスで、選手や監督・コーチ陣といろんな話をします。今は「今日勝ったら、北海道の子どもたちはこう思ってくれるんじゃないか」なんて言葉が、監督やキャプテンから自然に出るようになりました。

午後は、会社で社員や幹部と話します。何か悩んでいたら「北海道のためになることなら、執行責任は君たちにあるのだから、迷わず進もう。結果責任は全部私が取る」と伝えています。

今では社員の側からいろいろな提案が出てくるようになりました。先日の全社会議では、メタバースについての勉強会を行いました。メタバースは、スポーツ全般と相性が良さそうです。

一方、諸刃の剣かもしれない。メタバースのヴァーチャル体験が、チケット収入減につながらないとは限らないのですから。しかしそれは、新たな可能性の開拓と捉えたい。

そして、どれだけ技術が進歩しても、スタジアムでないと味わえないリアルな興奮、臨場感に勝るものはない、とも信じています。

北海道コンサドーレ札幌は、選手を期限付き移籍で他チームに送り出す際、その選手の背番号は空けておきます。空番が人気の番号だとグッズ収入に影響するので、他チームでは使うのが普通。しかし、当チームは違います。

それは、期限付き移籍の選手に対する「君の活躍に注目しているよ、待っているよ」というメッセージなのです。北海道のために共に汗を流した仲間を無下にはしない。それは選手だけでなく、社員に対しても同じ。コンサドーレとは、そういう会社です。

編集後記

チーフコンサルタント
宮崎 美晴

今回のインタビューでは、三上代表取締役GMの北海道への熱意が一貫して語られました。同社の理念は「北海道のため、地域のため」と仰っており、その目的のために、国内TOPチームであり続けることが重要と話されたことが大変印象的でした。

選手同士、社内でも「北海道のために何ができるか」が日常的な会話であり、地域の街づくりへの貢献、北海道のBtoBビジネスのハブ役としての新たな挑戦、SDGsへの取り組みも始まっています。

インタビュー後は、三上代表自ら、笑顔で社員や選手に自然体で話しかけている姿を拝見しました。快活な雰囲気作りもさすがと感じます。

これからも北海道と共に発展していく存在となってほしいと、期待が膨らむインタビューでした。

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