書籍に対する愛情はそのままに、「不易流行」を心掛ける。
株式会社ダイヤ書房
代表取締役社長 山田 大介
1974年、札幌市出身(43歳)。1998年大学卒業後、サントリーに入社。営業職として10年間勤務後、北海道に戻り、父親が経営するダイヤ書房に入社。営業職を経て2013年、代表取締役社長に就任。
※所属・役職等は取材時点のものとなります。
10年間の他社経験が経営の確かな手応えに
当社は1970年、従業員4名、わずか15坪という、祖父が50代に入ってから立ち上げた小さな書店からスタートしました。それを父が受け継ぎ、2代目として大きくしてきました。私は一人息子ですから、幼い頃から少なからず事業承継を意識していました。その一方で、「決められた道を当然のように進むのはいかがなものだろう」という反発心もありました。
大学卒業時に進路として選択したのは酒類製造販売の大手、サントリーへの入社でした。野球部の先輩に相談して勧められたこともあり決断したのですが、父からは強く引き留められるようなこともなかったように記憶しています。それから営業職としての10年間は大変貴重な経験となり、後の営業の仕事や経営者としての判断を支えてくれる力となりました。
サントリーに入社して9年目に、ダイヤ書房の3年分の財務諸表を持ってきて、「戻るか、残るか。どちらでも構わない。このあたりで決めよう」と問いかけてきた父に対する私の返答は、ダイヤ書房への入社でした。財務面の安定性、書店の枠を大きく超えて様々な事業を展開できるダイナミックな風土。これなら、「思ったことを思い切ってやれるのではないか」そんな気持ちが沸き上がってきたのを記憶しています。
教育情報産業としての新しい取り組みを大胆に
小さな町の本屋さんとしてスタートした当社は、一時期は11店舗にまでその店舗数を広げました。しかし、現在書店として残しているのは本社脇にある1店舗のみです。書店経営中心から学校に集中した営業への大胆なシフトは勇気のいるものです。しかし、父の代の後半から経営資源の投下を学校営業に切り替え、学校を通しての生徒への教科書・参考書の販売、大学・専門学校など進路情報提供へと大きく事業の方向を転換し、私がさらに加速させました。
進路を考える高校生のために、大学・専門学校の情報が掲載された『Wing』は、全国の高等学校約2,000校の進路指導室前に設置され、300大学規模のクライアントを持つ事業に発展しました。高校生と大学・専門学校をマッチングさせる進学相談会も年間50開催を超える規模となっています。広告・宣伝により生徒の動員を図る他社とは異なり、長年の教科書販売を通して培った高等学校現場とのパイプが信頼感を生み、進路指導の一環としての位置づけを確保したことが、ここまでこの事業を拡大できた要因ではないでしょうか。デジタルの時代ですが、直接触れ合うことによる情報伝達の機会を求める大学・専門学校のニーズにも、十分応えるものとなりました。社員の提案により、就職を希望する生徒に対しての就職情報の提供も同じ相談会に組み込んだことも、高校の進路指導現場のニーズに合致するものでした。かつて、高等学校を担当する営業が、進路指導室の脇に各大学宛の資料請求はがきを備える提案をしたことが、このような事業に拡がる発端となりました。今や、全国各地の大学・専門学校とのパイプも強固なものとなり、そういった学校からの広報ツール、備品作成の発注も受けるようになっています。
このように、新規事業を展開し、全国にネットワークを広げるために積極的に取り組んでいるのが、全国各地の優良企業との提携、M&Aです。直近では2017年1月の、企業のメッセージ・情報を載せた無料配布ノート「応援ノート」を発行するC-GRAT社の買収。幼稚園から大学まで、配りたいターゲットにピンポイントで配布できる仕組みを持っており、海外展開も含めこれからの貴重な戦略ツールとなる可能性を持っています。また5月には、デジタル教材の強化を狙い、ICT教育システムの上場企業チエル社との資本業務提携も実現しました。これらには、時代の流れに気を配り、いち早くそのニーズに反応して躊躇なく新たな一手を決断するという、他社での営業マン時代から培ってきたビジネスに対する感覚みたいなものが生かされているように思います。
既成概念を超え、刺激となる外からの若い力
父の時代から続く、既存の枠に捉われず積極的に提案し、社員一人一人のアイデアを生かす経営をしようという当社の空気は、私の代になっても変わることはありません。現場でお客様と直接接するスタッフの提案は、何よりも貴重な財産となっています。今年、当社は新卒3名の採用をしましたが、図らずも全員が女性でした。かつて、書店における人材採用は男性に重点を置いていた傾向があります。本というのはかさ張り重たいものですから、力仕事が多く、女性には向かないと思われていたからです。しかし、教育や情報サービスの分野にシフトしてきた今、女性の感性や気配りは貴重です。女性ならではの提案は営業場面でも優れており、活躍がますます期待されていると感じています。
中途採用においても、他分野からの採用を積極的に行っています。4年程前にリージョンズさんを通して入社してもらった社員は高校時代、全道大会2位となったラグビー部のレギュラー。そして、大学に入ると一転してバンド活動にはまり、中退してプロを目指した異色の人材です。夢をあきらめてOA関連の専門商社で営業していたのですが、縁あって当社に入社することになりました。中四国・九州の学校への営業をしていたのですが、遠隔の地を一人で回りながら、担当者としっかり関係を築いてくれました。その後、中四国については後輩に引き継ぐことになり、各校を訪問した際、あたかもプロシンガーのように先方の担当者と握手する姿を記念撮影する様子を見て、驚きました。持ち前の明るさ、突破力、エンターテイナーぶりが生かされたいい例ですね。
原点となる「町の本屋さん」の存在意義は決して忘れない
スーパーやショッピングセンターなどで、ワゴンに乗せた本を割引販売する「バーゲンブック」というのをご覧になったことがあるでしょうか。本には再販制による定価販売という仕組みが強く残っているのですが、古本ではなく、デッドストックとなった新本を出版社の了解を得て定価を割って販売する手法を、当社は20年以上前からやっていました。ある営業の若手がプライベートで温泉に出かけた折、宿のスタッフにビンゴゲームの賞品としてバーゲンブックの本を使わないかと持ち掛けて、商談に繋がったケースもあります。
当社の始まりである「本を売る」という仕事も、既存のやり方だけでは厳しいものがあります。しかし、違う視点や違う手法を取り入れることで、必ずニーズは広がる。そう私たちは信じています。本好きの方々で、「本に係る仕事をしたいけど、就職先としては厳しいな」と感じている人は、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。でも当社であれば、少し範囲を広げて「教育産業」という観点で可能性を探すこと、本の新しい売り方にこだわること。いずれの道でも、まだまだできることはあるはずです。どの立場に立っても、未来ある若い人たちに大切なものを届ける価値ある仕事だという矜持を持って、これからも働いていきたいですね。